東野圭吾の最新刊『マスカレード・ゲーム』レビュー ミステリ評論家・千街晶之が紐解く、同じ場所で異なる事件が起きる作品の魅力

東野圭吾『マスカレード・ゲーム』書評

 アガサ・クリスティーのデビュー作にして、名探偵エルキュール・ポアロの初登場作である『スタイルズ荘の怪事件』に登場したスタイルズ荘は、『カーテン ポアロ最後の事件』でも殺人の舞台となった。この例を代表として、ミステリの世界では時折、同じ場所で時を隔てて別々の事件が起こることがある。スタイルズ荘は個人の邸宅だが、ミステリ漫画『金田一少年の事件簿』(天樹征丸・金成陽三郎原作、さとうふみや画)の第一エピソード「オペラ座館殺人事件」の舞台となった孤島のリゾートホテル「オペラ座館」では、その後もしばしば惨劇が起きている。オーナーにとってはたまったものではないだろう。

事件に巻き込まれる高級ホテル

 さて、同じホテルで何度も事件が起こるといえば、思い浮かぶのは東野圭吾の「マスカレード」シリーズだ。長篇第一作『マスカレード・ホテル』(2011年)では、高級ホテル「ホテル・コルテシア東京」(以下、コルテシアと略)で殺人が起こるのではという予測に従い、警視庁捜査一課の新田浩介警部補らがホテルのスタッフに扮して潜入捜査をすることになった。新田は、指導係を務めるホテルのフロントクラーク・山岸尚美と時には対立しつつ、互いの職業意識を認め合い、殺人を未然に防ぐ。

 高級ホテルであるコルテシアで、そう何度も物騒な事態が持ち上がってはホテルの名に傷がつきかねないし、同じ場所で何度も事件が起こるのはご都合主義に陥る危険性もある。そのせいか、第二作『マスカレード・イブ』(2014年)は、出会う前の新田と尚美が登場する前日譚短篇集となっている。しかし、第三作(長篇第二作)『マスカレード・ナイト』(2017年)では、コルテシアの年越しカウントダウン・パーティに殺人犯が現れるという密告状が届いたため、新田は再び潜入捜査に挑み、コンシェルジュに抜擢された尚美とコンビを組む。

 『マスカレード・ホテル』と『マスカレード・ナイト』は映画化されており、木村拓哉が新田浩介を、長澤まさみが山岸尚美を演じている。この二作ではいずれもホテル内での殺人は阻止されるのだが、このたび刊行された第四作(長篇としては第三作)『マスカレード・ゲーム』では、コルテシアがまたしても事件に巻き込まれるのである。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「書評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる