もしも忍者が現代のOLになったら……? 人気シリーズ『忍者だけど、OLやっています』のリアリティ
魅力的なキャラクター造型も、『忍者OL』シリーズの読みどころのひとつだ。天然で頼りないが、祖父が創業した会社の理念を大切にしたいという思いが強く、また陽菜子にもまっすぐな好意を寄せる創。創は陽菜子の変身術を唯一見抜けた人でもあり、このことをきっかけに彼へのぼんくらという認識を陽菜子は改めていくのだった。さまざまな事件を通じて二人の距離は近づくが、陽菜子はなかなか自分の気持ちに素直になることができず、また忍びという出自ゆえに難しい決断を迫られる。
一方で、陽菜子の幼馴染で彼女に会うたびに辛辣な言葉をかけ続ける、高圧的で口の悪いドS忍者・惣真の存在も見逃せない。冷徹な振る舞いをみせる惣真だが、陽菜子にみせる執着や時折こぼれる本音が切なく、人気キャラだというのも頷ける。惣真は陽菜子にとって里の象徴であり、苦手意識を持ちつつも、捻れた愛着や信頼を捨てきることができないのだ。
ほかにも、陽菜子の同居人で、里では姉妹同然に育った優秀なくノ一・穂乃香や、思いがけない出自をもつ会社の先輩、そしてシリーズが進む中で敵対する他の里の忍びも登場し、忍者間の派閥争いも繰り広げられていく。なかでも陽菜子の友人であり、見張り役でもある穂乃香は、印象深いキャラクターだ。とある事件に巻き込まれる中で陽菜子と穂乃香の強い絆が露わとなる第3巻は、女性同士の関係性が好きな人にはぜひおすすめしたい巻となっている。
最新刊の『忍者だけど、OLやってます 遺言書争奪戦の巻』は、惣真の陽菜子へのプロポーズという、意表をつく展開からスタートする。陽菜子に指輪を渡す惣真の真意は一体何なのか。二人の冷え冷えとしたやり取りはスリリングだが、この後にさらなるトラブルが浮上する。陽菜子の勤め先の創業者で、創の祖父である会長の與太郎が逝去。彼が遺言書を見つけた者に会社を譲渡すると言い残したことで、孫の創と、彼の父でIME社長・亘との間で遺言書争奪戦が勃発。陽菜子もその騒動に巻き込まれてしまう。
亡くなった会長は、第1巻から登場し、陽菜子と創それぞれに大きな影響を与えた、物語のキーパーソンでもある。綺麗ごとばかりでは仕事はやっていけないが、会長が掲げる理想は美しく、その思いに共鳴して陽菜子は入社を決意したのであった。創もまた、祖父を尊敬しており、父と対立してでも会社を守ろうとする。これまでいささか頼りない場面が多かった創だが、本巻では彼の奥にある芯の強さが発揮され、成長した姿を見せてくれる。
忍びとしての使命や生き方、そして恋心の間で葛藤し続けた陽菜子が、物語の最後に手に入れたものとは……。そのあたたかな結末を、ぜひ見届けてほしい。