連載:道玄坂上ミステリ監視塔 書評家たちが選ぶ、2022年2月のベスト国内ミステリ小説

2022年2月のベスト国内ミステリ小説

若林踏の一冊:鴨崎暖炉『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』(宝島社文庫)

 「密室の謎が解けなければ無罪」という判決により、密室犯罪が激増した架空の日本を舞台にした物語である。突飛な設定にコミカルな登場人物と、一見すると軽妙な読み心地だけが魅力のミステリだと思うかもしれない。しかし油断することなかれ。本書は様々な趣向の密室トリックを詰め込んだ上に、その解明を丁寧かつ緻密に描いた本格謎解き小説なのだ。一つ一つのトリックは相当に手が込んでおり、それを解く過程にも豊富なアイディアが盛り込まれている点が良い。密室トリックを創出することに情熱を注ぐ新人作家の登場、実に頼もしいぞ。

酒井貞道の一冊:天祢涼『陽だまりに至る病』(文藝春秋)

 コロナ禍が猛威を振るう二〇二一年一月、小学五年生の少女・咲陽が、貧しい同級生を自室に匿う。その同級生の父親には、殺人の嫌疑がかけられた。同級生は何を知るのか。同級生の父は本当に犯人か。このミステリとしての焦点以上に、事件関係者の困窮が印象に残る。被害者も悲惨、同級生も悲惨。そして咲陽も、コロナによって両親の収入が激減し、生活基盤が崩れてきたことを知る。小学生ゆえ仕方ないのだが、自らの無知と無力に彼女は葛藤する。その果てに、タイトル通りのものが現れる。コロナ禍の小説への埋め込み方は、技ありである。

杉江松恋の一冊:鴨崎暖炉『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』(宝島社文庫)

 密室トリックが六つ考案されている、というだけでも結構点は甘くなるのだが、さらに見立ての趣向が加わり、次々に起きる事件を眺めているうちにだんだん楽しくなってくる。次は何をしてくれるんだろう、という期待感でページをめくらされるのだ。新人のデビュー作ではなかなかないことである。事件の外側を飾るギミックがやたらと賑やかなので欺かれそうになるが、中心にあるものは謎解きに対する真摯な姿勢で私は好感を抱いた。主人公のキャラクターが今一つ把握しがたいのもいい。ぼんやりなのかしっかりなのか、どっちなんだお前は。

 この欄始まって以来初めて、三人が同じ作品を選びました。しかもデビュー作。来月も重複作は出るのか、はたまた。次回もお楽しみに。

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