『千歳くんラムネ瓶のなか』『異修羅』『スパイ教室』……『このライトノベルがすごい!2021』ランクイン作品を分析

『このラノ!2021』作品から人気ラノベ分析

 文庫が中心だったライトノベルの市場は、小説投稿サイトで話題となって刊行された単行本の人気が拡大して、伏瀬『転生したらスライムだった件』(GCノベルズ)や、香月美夜『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~』(TOブックス)といった作品がベストセラーになった。『このラノ!』でもこうした傾向を取り入れ、単行本&ノベルズ部門を創設。『本好きの下剋上』が連覇したり、古宮九時『Unnamed Memory』(電撃の新文芸)が1位を奪ったりといった争いが繰り広げてられてきた。

異修羅
異修羅

 『このラノ!2021』で1位となった珪素の『異修羅』もネット発の作品だ。魔王が勇者によって討伐された後の世界で、圧倒的な力を持った英雄たちが集まって、最強の地位を目指すための戦いを繰り広げるというストーリー。英雄たちには人間の剣術使いもいれば、骨格だけの槍使いもいて、あらゆる武術を極めたスライムもいるといった具合に多種多様。いったいどうやって戦うのか、そしてどちらが強いのかといった興味を抱かせている。

 文庫と単行本・ノベルズも合わせた総合ランキングで、『異修羅』は『千歳くんはラムネ瓶のなか』に次いで2位。第3巻まで刊行されているが、六合上覧と呼ばれる大会はようやく緒戦の段階で、これから描かれる激しいバトルに揺さぶられたファンに支えられ、既刊ながらも上位を保ち続けそう。もっとも、単行本部門の2位は『本好きの下剋上』で3位は『Unnamed Memory』と常連がずらり。10位の白石定規『魔女の旅々』(GAノベルズ)のようにアニメ化作品も相次いでいてライバルは多い。それだけ活況の市場なのだ。

 『このラノ!』にはイラストレーターを選ぶ部門もあって、『ようこそ実力至上主義の教室へ』を手がけるトモセシュンサクが初の1位となった。『このラノ!2019』では10位、『このラノ!2020』では3位と、小説の人気とともに着実に上位へと進出。描くキャラクターも男性部門の綾小路清隆だけでなく、女性部門でも軽井沢軽が1位となっていて、ビジュアルへの支持は相当なものある。こうなると、動いてしゃべるキャラたちに再会できるアニメの続編を期待したくなってくる。

 藤井聡太二冠の活躍で、現実に追い越されたと話題になった将棋ラノベ『りゅうおうのおしごと』のイラストを手がけ、3連覇するかもと思われたしらびは3位。2位には『弱キャラ友崎くん』のフライ、4位は二丸修一『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』(電撃文庫)のしぐれういと、ラブコメ系が美少女キャラの可愛さもあってか上位に並んだ。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

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