落ちこぼれ少女たちが死亡率9割の任務に挑むーー『スパイ教室』シリーズの圧倒的おもしろさ

落ちこぼれ少女たちが死亡率9割の任務に挑むーー『スパイ教室』シリーズの圧倒的おもしろさ

 毎月100冊は下らない新刊が発売されるライトノベルにあって、知らない作家の耳にしたことがないタイトルを読んでみようと思う時に、役に立つのが版元が作るPVだ。イラストやアニメに声優の声が乗せられて、読みどころをガッツリと紹介してくれている。そもそもPVが作られるということが、これをイチオシだと版元が思っている証拠だ。

 少し前だと、第15回MF文庫Jライトノベル新人賞で最優秀賞となった二語十『探偵はもう、死んでいる。』(MF文庫J)の発売に合わせ、『魔法少女まどか☆マギカ』や『幼女戦記』に出演する人気声優、悠木碧によるナレーションがつけられたPVが作られた。その前は、宝島社の「このライトノベルがすごい! 2019」で文庫部門の総合と新作をダブル受賞した瘤久保慎二『錆喰いビスコ』(電撃文庫)で、Netflixで配信が始まったアニメ『攻殻機動隊SAC_2045』でバトーを演じている大塚明夫のナレーションつきPVが提供された。

 そして、最新の第2巻が4月17日に出て、Rakutenブックスの4月14日から4月19日のライトノベルランキングで25位に名を連ねた竹町『スパイ教室02〈愛娘〉のグレーテ』(ファンタジア文庫)では、第1巻『スパイ教室01 〈花園〉のリリィ』発売時に、8人もの超人気声優がcv(キャラクターボイス)を務めるPVが作られた。第32回ファンタジア大賞で大賞を獲得した作品とはいえ、ここまでの力の入れようはやはり異例。編集にも営業にも、それだけの自信があるという現れだ。

 実際に『スパイ教室01 〈愛娘〉のリリィ』は最高だった。いや、登場人物でディン共和国でも最強のスパイと言われたクラウス(cv・梅原裕一郎)の言葉を借りれば「極上だ」。共和国でも精鋭が集められたスパイチーム「焔」に所属していたクラウスだったが、彼だけが別行動をとっていた任務でチームは壊滅。ひとり残されたクラウスに新たな任務が下った。それは、スパイ養成学校を出たばかりな上に、好成績を収められなかった落ちこぼれの少女たちと共に、敵国のガルガド帝国が開発した生物兵器「奈落人形」を破壊するという、死亡率9割の過酷な任務の達成だった。

 「焔」ですら達成できなかった不可能任務に挑むには、新米スパイの少女たちを短期間のうちに鍛え上げなければならない。クラウスはまず、拠点となった陽炎パレスに集まっていた7人の少女たちに南京錠を渡し、鍵を使わず1分で開けるよう命令するが、解錠できたのは1人だけ。そこでクラウスは、1秒で6個の南京錠を開けてみせてこう指導した。「良い具合に開けろ」。以上。

 「「「「「「「ちょっと待てえええええええええぇ!」」」」」」」と、同時に7人の少女たちが叫んだのも当然。そんな指導で南京錠を開けられるようになる訳はないし、交渉術の極意を「美しく語れ」と言われ、戦闘では「とにかく倒せ」と教えられただけで、クラウスのような世界最強のスパイになれるものでもない。

 まさに“名スパイ、名教官にあらず”を地で行く展開が笑えるが、教えられる少女たちにとっては死活問題。このままでは、ろくな指導を受けられないまま死地に送り出されると焦った少女スパイの1人、コードネーム《花園》のリリィ(cv.雨宮天)がクラウスを湖上のボートに誘い出し、得意の毒を使って身動きがとれないようにして、命が惜しかったら自分たちを守るよう脅迫する。

 養成学校では落ちこぼれと言われながらも、なかなかの手際を見せてクラウスをハメるリリィだったが、そこは世界最強のスパイだけすべてお見通しだった。この謀略と逆転のドラマに、スパイものならではの先を読み、裏をかく面白さがあって楽しめる。ただ、自分はつくづく教官には向いてないと自覚したクラウスは、少女たちに自分を襲わせることで、実地にノウハウを学ばせようとする。

 クラウスに挑んでは撃退される繰り返しの中、リリィ以外も個性豊かなスパイ候補の少女たちが、「7人で協力して生活すること」「外出時に本気を出すこと」といった陽炎ハウスのルールを守りつつ、だんだんと成長していった先。少女たちのチームとは段違いの実力を持った「焔」ですら失敗した不可能任務を成功させられるのか? といったスリリングな展開に引きつけられる。

 もっとも、『スパイ教室01 〈花園〉のリリィ』には、さらにとてつもない仕掛けが仕込まれているから唖然呆然。少女たちが自分の眼鏡にかなう働きをした時に口にするクラウスの口癖「極上だ」を発したくなる。クラウス役の梅原裕一郎をのぞき、PVで役を演じる女性声優が、雨宮天、伊藤未来、多数の出演作を持つ東山奈央、悠木碧、上坂すみれ、佐倉綾音、楠木ともりの7人だという状況に、ある意味で「大丈夫か?」と思ってしまうだろう。

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