『千歳くんラムネ瓶のなか』『異修羅』『スパイ教室』……『このライトノベルがすごい!2021』ランクイン作品を分析

『このラノ!2021』作品から人気ラノベ分析

 今、熱く読まれているライトノベルを投票によって選ぶ宝島社の『このライトノベルがすごい!2021』が11月24日に刊行。文庫部門では、裕夢によるラブコメ作品『千歳くんラムネ瓶のなか』(ガガガ文庫)が、前年の19位から急浮上して初の1位となった。単行本・ノベルズ部門では、珪素の異世界バトル『異修羅』(カドカワBOOKS)が、新作でありながら既刊のシリーズを含めたランキングで1位を獲得。面白い作品を常に探し求めているラノベファンからの強い支持が、新しめのシリーズをトップへと押し上げた。

千歳くんラムネ瓶のなか
千歳くんラムネ瓶のなか

 千歳朔というイケメン男子が、姫オーラを放つ美少女の柊夕湖、地味で努力型だがそこが可愛い内田優空、バスケ部でエースとして活躍する青海陽といった才媛たちに囲まれながら、高校で起こるさまざまな出来事に関わっていく。『千歳くんはラムネ瓶のなか』の設定は、数あるラノベのラブコメ作品でも主人公の男子が超リア充という点で異彩を放つ。

 孤高だったり変わり者だったり冴えていなかったりする男子、例えば桜井のりおの漫画『僕の心のヤバイやつ』に出てくる市川のような陰キャが、山田のような美少女に好かれ報われる展開に、自分を重ねて夢を見るタイプの作品とは正反対。それでいて、リア充爆発しろと反感を買うどころか、純粋でまっすぐなヒーロー的な千歳朔のかっこよさに惹かれる読者がついて、じわじわと人気を広げていったことが今回の栄冠につながった。

 『このラノ!2021』には裕夢へのインタビューも掲載されていて、リア充設定と呼ばれることへの思いや、作品を通して描きたかったことなどを語っている。読めばどうして人気になっているかが分かるだろう。

 『千歳くんはラムネ瓶のなか』のように、既刊のシリーズがトップとなったのは、『このラノ!2018』の白鳥士郎『りゅうおうのおしごと』以来。もっとも、『千歳くんはラムネ瓶のなか』の第1巻が刊行されたのは2019年6月で、浸透するまもなく初年度を迎えたため、『このラノ!2020』でかろうじて19位に食い込んだ。シリーズが本格化した今回は、協力者が期待の新シリーズとして票を投じた感じ。WEBだけでは6位だったランキングが1位に引っ張り上げられた。

 協力者票とは、『このラノ!』がランキングを集計するにあたって、ラノベをよく読んでいるレビュアーや書店員、ブログ管理者から投じてもらうもの。好きなシリーズや、学校で評判になっているシリーズを読み続けているラノベファンに比べて、目新しい作品を常に追い求めて新シリーズを読み、紹介しようとする傾向が強い。数に勝るWEBからの投票が人気シリーズに傾くため、協力者票に傾斜配分がかけて補正を行う結果、一昨年は瘤久保慎司の『錆喰いビスコ』(電撃文庫)、昨年は宇野朴人の『七つの魔剣が支配する』(電撃文庫)と、ともに新シリーズが文庫部門の1位となった。

ようこそ実力至上主義の教室へ
ようこそ実力至上主義の教室へ

 ちなみにWEBでのランキング1位は、衣笠彰梧『ようこそ実力至上主義の教室へ』(MF文庫J)で、協力者票を含んだ総合でも文庫部門3位に付けている。主人公の綾小路清隆は、表だったリア充ぶりがまぶしく輝く千歳朔とは正反対に、才能を隠して暗躍する闇のリア充とも言えそうなキャラ。その黒幕ぶりに惹かれるファンも多いようで、男性キャラクター部門で堂々の1位を獲得した。千歳朔も4位と好位置につけていて、来年のランキング争いが作品でもキャラクターでも期待できる。

 新作や新鋭が強いランキングの傾向は、2位に竹町『スパイ教室』(ファンタジア文庫)、4位に二語十『探偵はもう、死んでいる。』(MF文庫J)が入ったことからもうかがえる。『スパイ教室』は第32回ファンタジア大賞で大賞を獲得した作品。スパイ養成学校を出た落ちこぼれの少女スパイたちが、教官となった世界最強のスパイに鍛えられながら、死亡率9割の不可能任務に挑むという、スリリングなストーリーを楽しめる。

 『探偵はもう、死んでいる。』も第16回MF文庫J新人賞で最優秀賞となった新作だ。いっしょに世界を回って難事件に挑んでいた少女探偵を喪った、助手で高校生の少年が再起しようとする設定に、ミステリ的な事件が絡み、SF的な状況がうかぶといった具合に、ジャンルを超えてエスカレートしていく話に驚ける。

 文庫部門の5位は紙城境介『継母の連れ子が元カノだった』(角川スニーカー文庫)、7位は来年1月からのアニメ放送が決まっている屋久ユウキ『弱キャラ友崎くん』(ガガガ文庫)で、ラブコメ勢の強さが目立った。一方で、2位の『スパイ教室』のようなアクションや、9位の犬村小六『プロペラオペラ』(ガガガ文庫)のような架空戦記もランクインして来るところに、ラノベが持つ"何でもあり"の間口の広さが見て取れる。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「書評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる