山田風太郎の名作はコミカライズでどう生まれ変わった? 『風太郎不戦日記』が描き出す、蟲惑的な“色気”

山田風太郎の名作はコミカライズでどう生まれ変わった? 『風太郎不戦日記』が描き出す、蟲惑的な“色気”

※以下、ネタバレ注意

 『風太郎不戦日記』2巻のクライマックスシーン――それは、“運命の日”である「8月15日」の描写だ。

 当時、山田は長野県の飯田に疎開していたのだが(通っていた東京医専が同地に疎開したため)、そこで日本の敗戦を知る。「ドラマの中の通行人」であるはずの彼だったが、その“現実”をなかなか受け入れることはできない。

「嘘だ!」

「嘘だ!」

「…嘘ではない……」

 震える手で日記に「八月十五日 炎天 帝国ツイニ敵ニ屈ス。」とだけ書き記した山田は、セミの声が響きわたる強い日差しのもと、ひとりヨロヨロと歩き出す。そして、そこからそれまで白と黒だけで構築されていた漫画の世界に「色」がつき、原作にはない、ある幻想的な場面が見開きで挿入されるのだ。おそらく勝田文は、山田風太郎の日記を漫画化するにあたり、何よりもこのシュルレアリスティックなカラーの画を描きたかったのではないだろうか。それがどういう画なのかをここで書くような野暮なマネはしないので、気になった方はぜひ同書を手にとってほしい。きっと、既存の文学作品をあえて漫画にする意味――もっといえば、コミカライズという表現の醍醐味と、のちに作家になるひとりの青年が受けた衝撃の大きさを感じとることができるはずだ。

参考文献:『戦中派不戦日記 山田風太郎ベストコレクション』山田風太郎(角川文庫)

■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。Twitter

■書籍情報
『風太郎不戦日記(2)』
原作:山田風太郎 
著:勝田文
価格:本体640円+税
出版社:講談社
公式サイト

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