『死役所』の人気が衰えない理由 「その後」を想像させる巧みな手法に迫る

『死役所』の人気が衰えない理由

  『死役所』(あずみきし/新潮社)の連載が始まったのは2013年だった。早くも7年の月日が経った。昨年(2019年)の連続ドラマ化を例に挙げてみても、『死役所』の人気は今なお衰えない。

各エピソードが迎えるラストの凄み

 死役所とは死者が死んでからすぐに行く場所である。死者たちは死因別に「自殺課」「他殺課」「死産課」などの課に行き、手続きをしてから成仏する。死役所で働くのは生前死刑囚だった人たちだ。

 死者の中には自分が死んだことを死役所に来て初めて自覚する人も多い。死を受け入れられず動揺する人もいれば、冷静にその事実を受け止める人もいる。彼らの姿は死んだときのままである。

 エピソードごとに主人公は変わる。死役所に来た人たち、または死役所で働く人たちの死ぬまでの経緯が描かれる。

 殺人や事故死などで理不尽な死に方をする人たちはもちろんいて、後味が良いとは言い難いエピソードもたくさんある。筆者が『死役所』の凄みを感じるのは各エピソードが迎えるラストである。まるで死の瞬間のようなスピード感で結末は訪れ、その中には「あえて見せないこと」が数多く含まれている。それが読者の想像力をかきたてるのだ。

 どのエピソードを読んでも死者の周囲の人たちは、その後どう生きていくのか気になって仕方がない。最後にそれが明かされるエピソードはもちろんある。だがすべてではないのだ。その例となるエピソードを三つ取り上げてみたい。

※以下、ネタバレあり

『死役所(4)』

    4巻に収録されている「人を殺す理由」は、定食屋で料理人をしている若い男、坂浦眞澄(さかうら・ますみ)が主人公だ。妻は妊娠中で、妻と子どもと三人で幸せな家庭を築こうとしている。12年前、彼は定食屋の売り上げ金を盗んだ男によって父親が目の前で刺殺された。大人になった眞澄は父の店を継ぎ、犯人の死刑を願うと同時に、生きて償ってほしいとも思いながら生きてきた。

   ところがある日、眞澄は突然店に入ってきた客に刺され死亡する。殺される理由のなかった彼は死役所で唖然とするが、そこで初めて自分を殺した人物が、父を殺した犯人と同一人物であると知る。彼は父親が殺された事件の目撃者として裁判で証言台に立ったことから、犯人に逆恨みされたのだ。

    あまりにも理不尽な事態に嘆きながら「妻のお腹にいる子どもも逆恨みされて殺されるのでは」と眞澄は心配する。だが、男が死んだ後犯人はどう裁かれるのか、子どもは犯人に狙われず無事に生き続けられるのか、死んだ眞澄が知ることはない。眞澄だけではなく読者もわからないまま、このエピソードは幕を閉じる。2019年に放送されたドラマ版『死役所』でも取り上げられた物語だ。

    一方で死者の死後のことが描かれるエピソードもある。5巻収録の「命の放送」はネット配信が趣味の生野芳聡(せいの・よしあき)が主人公で、病気になった後も自分の闘病生活を昏睡状態になる直前まで実況動画で流していた。芳聡の葬式では別の動画配信者が実況動画を撮影しに来る。動画はすぐに削除され配信停止となる。これは皮肉なのか、それとも芳聡の望んでいたことだったのか。ハッピーエンドなのかバッドエンドなのか、読者によって意見の分かれるエピソードである。

    動画配信は非常に時事性のある内容だった。3巻収録の「前を見て」もそうだ。主人公は女子高生の須藤麻帆(すどう・まほ)。彼女はスマートフォン購入をきっかけにスマホ中毒に陥り、結果としてそれが死に繋がる。だが成仏する直前になって彼女は疑問に思う。本当に自分は事故死だったのだろうか。スマホを見ながら歩いていたから階段から転落してしまったのか、それとも…驚愕の真実はラストに明かされる。

 上記三つを含むエピソードに共通した特徴は何だろうか。

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