『僕のヒーローアカデミア』梅雨ちゃんが愛される理由とは? 心優しき「精神的支柱」の役割
個性でも知力でもない、他の生徒が持ちえない蛙吹の「強み」
蛙吹はポーカーフェイスゆえ、友達がなかなかできない中学時代を過ごしていた。それゆえ、「友人」や「仲間」への思いもひときわ強い。
ルールや守るべき規範を遵守した上で行動にうつす生真面目さも持つ彼女は、爆轟誘拐事件で規則を破っても助けに行こうと画策する緑谷たちに対し、
「ルールを破ると言うのなら、その行為はヴィランのそれと同じなのよ」
(『僕のヒーローアカデミア』9巻より)
と、ハッキリと口にする。
だが結局、爆轟救出に向かってしまった緑谷たち。帰ってきた仲間に、彼女は、涙ながらにこう伝える。
「色んな嫌な気持ちが溢れて…何て言ったらいいかわからなくなって
みんなと楽しくおしゃべりできそうになかったのよ」
「でもそれはとても悲しいの」
「だから…まとまらなくってもちゃんとお話をして また皆と楽しくお喋りできるようにしたいと思ったの」
(『僕のヒーローアカデミア』10巻より)
言いようのない不安を抱いていたクラスメイトの気持ちを涙ながらに代弁した蛙吹に、緑谷たちも涙ながらに謝罪する。
助けたいという気持ちがから回るあまりルールを疎かにする緑谷は、スターウォーズの登場人物でたとえるならばアナキン・スカイウォーカーだ。余りある力と、正義の心を持ち合わせているが、気持ちの強さゆえに暗黒面に落ちる可能性もはらんでいる。
実際、緑谷は無茶な個性の使い方で腕を使うパンチスタイルから、足を主体としたキックスタイルへの転向を余儀なくされた。
一方、蛙吹をたとえるならオビ・ワン=ケノービだ。教師や学校から決められたルールは遵守し、感情に執着しすぎず状況を判断する。正義の心も持ち合わせており、「正式に」アサインされた壊理救出ミッションでは、少女の命を救えると奮起している。
誰しも好きな人たちには嫌われたくない。それでも、仲間のために耳の痛い言葉を口にできる者は強い。焦りや憎しみ、怒りに流されず、仲間を思い、守るべき人へ心を傾ける姿勢は「ヒーロー」という職業を担うに相応しい人物と言える。
校外の大規模なミッションでは末端として参戦している蛙吹。だが、持ち前の判断力と、悪いことを「悪い」と言える強さ、そして仲間への思いやりを持った「精神的支柱」として、司令塔ポジションでの活躍にも期待が高まる。
■千歳悠
フリーライター。得意ジャンルは金融など。読書は参考書、ビジネス書、漫画、小説まで幅広く読む。ちとせ(@chitose_haruka)