『ぼくの地球を守って』紫苑と玉蘭はなぜわかりあえなかったのか? 厳しい結末が突きつける真理

『ぼくの地球を守って』紫苑と玉蘭の関係

 様々な人物の思惑が絡み合い、複雑な人間模様が形成されていく『ぼくの地球を守って』。月基地での出来事を描いた前世パートは特に、閉ざされた環境ですれ違い、対立した結果、悲劇の結末を迎えることになる。月基地のメンバーである紫苑は、彼らが突きつけられた「人と人がわかりあうことがいかに難しいか」という課題にもっとも翻弄された人物かもしれない。

 紫苑は星間戦争に巻き込まれた戦災孤児。平和な星へ保護されてからも、孤児であることを理由に周囲からいじめられては喧嘩になり、トラブルが絶えない。

 養父・ラズロに引き取られた紫苑は、戦災孤児だとからかってきた子どもにけがをさせてしまう。怒らないのか訊く紫苑に、ラズロは「私はまず仮の親としてしたいと思ったことを今はしたいんだ」と言って紫苑の頬にキスをする。驚き、涙を流す紫苑に、ラズロは語りかける。

「君にとっては初めてのキスだけど、まわりの子供はもう何万回ももらっている。その違いが『孤児』なんだって改めてわかって…君は心の底からやっと…『淋しい』って思ったんだ」

 自分が「持たぬ者」であることを知った紫苑の前に現れたのは、対極的な存在の玉蘭だった。円満な家庭で何不自由なく育った玉蘭はいわば「持てる者」であり、そのまっすぐさに紫苑は強烈な嫉妬と反発を抱く。

 正義感から世話を焼こうとする玉蘭に対し、紫苑は玉蘭が想いを寄せている女性とわざと付き合ったり、サーチェスパワーという能力の強さを見せつけたりする。傷つけては突き放す紫苑に耐えかねて、玉蘭はこう言い放つ。

「君はいつも僕に何かを言ってる。でも理解できるもんかと君はつっぱねる。じゃあ何をどうしてほしいんだ、この僕に!!」

 けれどこの言葉は紫苑には響かず、二人の関係はこじれたまま月基地へと持ち越されることとなる。

『ぼくの地球を守って(3)』

 初めは順調だった月基地での任務。だがしばらく経った頃、他星からの攻撃を受け、彼らの出身星は全滅してしまう。突然故郷を失ったうえ、KK(地球)へ降りるどうかで内部分裂したメンバーの関係は、最悪の方へと転がっていく。

 彼らの任務上、禁止とされていたKK降下を強く主張していた紫苑は、危険思想と見なされて玉蘭の指示で隔離されることになる。星が亡くなってなお大義名分にこだわる玉蘭に、紫苑は怒りをぶつける。

「光がさせば影だって出来る!!」「てめえの影だって振り返ればあるんだぞ!!」「オレはお前がしたくて出来ないことをみんなやってやるぞ!!」

 2人の亀裂が決定的となったのはこの時だろう。

 玉蘭が、キチェという特別な存在である木蓮に惹かれていることを知っていた紫苑は、あてつけのように無理やり木蓮を抱く。それを知って激昂した玉蘭が「殺してやる!!」と叫ぶのを見て、紫苑は「やったぞ!ついに言わせてやった!!ざまあみやがれ!!」と歓喜する。綺麗ごとばかりの玉蘭の本音を暴きたてた喜びは、けれど長くは続かない。

“オレはギョクの鼻をあかしてやりたかっただけだ。それは大成功に終わった。”

“でも、じゃあどうして満足じゃないんだ”

 紫苑が「持てる者」を前にして感じる苛立ちの正体はなにか。強烈に反発しながら、玉蘭の目を引くような行動をとる理由はなぜか。

「オレは余裕のあるやつらに結局――期待していたんだ、おこぼれを。振り向いて欲しかった」

 幼い頃ラズロがキスを与えてくれたように、自分を許し、そばにいてくれること。試すように相手を傷つけながら求めていたものがそれだと気づき、紫苑は木蓮の前で涙を流す。

 一方、玉蘭もまた、紫苑に対する本心を木蓮に吐露するシーンがある。

「僕は…彼が好きだった…幼いのに世間の風を真正面から受けていた彼は立派で強くて僕の眼を引きつけずにはおかなかった…!同時に弱くて勝手で、とても自由なあいつに嫉妬だってした。僕に無いものをみんな持っている。そして欲しいと思うものは、やつがいつも先にさらっていく…!」

 お互い、ないものねだりで執着しあっていた紫苑と玉蘭。木蓮にしたように腹を割って話をすることができたなら、2人の関係は改善が望めたかもしれない。けれどその機会は訪れることなく、こじれたまま伝染病で順に死んでいく。

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