『SLAM DUNK』木暮は“スターではない人間のスター”だ いつか来るかもしれない「その日」を信じ続ける強さ
まったくの初心者から4か月で急成長を遂げた桜木。驚異のポテンシャルを持つエース流川。欠点のないオールラウンダーの仙道に、高校ナンバーワンプレイヤーの沢北。『SLAM DUNK』のキャラクターの中からスター選手を1人挙げろと言われたら、才能ある人物が多すぎて誰の名前を出すべきか迷ってしまう。けれど、一番共感できるキャラクターは、と尋ねたならば、多くの人が挙げるのはこの名前かもしれない。湘北高校の3年生・木暮公延だ。
木暮は赤木と同じ中学出身。もともとは体力をつけるために入部したバスケ部だったが、中学卒業の頃には悔し涙を流して「オレ、このまま辞めたくない。バスケットが好きなんだ」と口に出すようなバスケ少年へと変わっている。そして、赤木と共に全国制覇を胸に抱きながら入学した湘北高校で、中学MVPの三井と出会う。恵まれた体格の赤木と天才シューター三井が揃ったことで全国への可能性を感じるも、三井はグレて部活に来なくなり、他の部員たちも次々と退部。結局、同学年で残ったのは木暮と赤木だけになってしまう。
仲間に恵まれないまま時は過ぎ、2人の最後の年となる3年目。宮城に加えて桜木、流川が入部し、三井も復帰。各ポジションの実力者が集ったことで、湘北の全国制覇はにわかに現実味のあるものとなる。だがそれは同時に、木暮がスタメンから外れることも意味していた。
シックスマンとなった木暮は、試合の時ほとんどベンチにいる。まったく出場しないわけではないけれど、その立ち位置は主力5人の誰かが欠けた時の交代要員だ。大事な局面で、彼はコート上にはいない。
思うところがないはずはないと思う。けれど、木暮がそんなやさぐれたそぶりを見せることは一切ない。王者・山王との戦いで、エース沢北に追い込まれて諦めムードに支配された時も「ベンチも最後まで戦おう」と鼓舞する。“代わりになれないならせめて――勇気づけよう”と声援を送る姿はただひたむきだ。
逃げず休まずバスケに打ち込んできたからこそ、木暮は自分が桜木たちとは違うことを知っている。落ちぶれた三井に向かって言い放った「何が全国制覇だ…夢見させるようなことを言うな‼」というセリフが象徴的だ。木暮は夢を見せる側ではない。才能あるスターに夢を見る側の人間なのだ。ほとんどの人間がそうであるように。
そんな木暮が、コートの中で輝いた瞬間がある。それが陵南戦のラスト1分だ。
湘北が1点差のリードを守れるかどうかの最終局面で、木暮は3Pを決める。これが決定打となり、湘北はインターハイ本選への出場権を獲得。木暮を控え選手と見くびっていた陵南の田岡監督に「あいつも3年間がんばってきた男なんだ。侮ってはいけなかった」と言わしめたプレーだ。