『ぼくの地球を守って』が時代を超えて読み継がれる理由 何度読んでも面白い、緻密な物語を考察

『ぼくの地球を守って』の物語構造

 「不朽の名作」と呼ばれる数多の作品は共通して、「いつ読んでも、何度読んでも通用する」要素を持っている。SF漫画の金字塔『ぼくの地球を守って』もまた、「いつ、何度でも」に耐えうる盤石な魅力を持つ作品だ。この壮大で難解な物語がなぜこんなにも長く、多くの人に愛されているのか、その物語構造から読み解きたい。

『ぼくの地球を守って(3)』

 『ぼくの地球を守って』は、前世の記憶を持つ7人の少年少女たちを主役とする転生SFファンタジー。主人公の坂口亜梨子は、同学年の男子2人から「毎晩同じ夢を見る」という話を聞かされる。その夢は「異星の人間として月基地から地球を観察する任務を担っていた」というもので、2人はそれを前世の記憶なのではないかと考えていた。そこからさらに共通の「記憶」を持つ面々が見つかり、「前世」の存在は現実味を帯びていく。

 先に記憶を取り戻していた仲間の話によれば、彼らの母星は戦争で全滅し、彼ら自身も月基地での伝染病で全員死亡という悲劇の結末を迎えたという。話を聞くうち、亜梨子も月基地にいたメンバーの1人・木蓮なのではないか? と目されるようになる。

 お互いの見た夢をつなぎ合わせながら、前世での出来事を明らかにしていく7人。その一方で、同じく前世の記憶を覚醒させた小学生・輪は、何かを胸に秘めて次々と事件を引き起こし、周囲を混乱に陥れていく。

 月基地で何が起きたのか? 輪の目的は何か? 時間と空間をまたぐ壮大なスケールの中、物語は目まぐるしく展開してく。 

 『ぼくの地球を守って』のすごさの一つは、ストーリーに惹き込む構成の巧みさだろう。上のあらすじからもわかると思うが、この物語は非常に複雑だ。前世の記憶と現代の出来事が入り乱れる上に、主要キャラクターの数も、転生前後含めて単純に倍だ。情報過多の一方で、序盤では明かされないことが多いため、読者は手探りするように読み始めることになる。それでも途中で放り出させることなく読み進めさせることができるのは、「情報開示」と「謎」の配置の良さだろう。

 まだ覚醒していない亜梨子の視点で他のメンバーから「教えてもらう」ことで、読者はまず月基地での出来事のアウトラインを知る。その次に出てくるのは、「月基地の最後に何が起きたのか?」という、もう一段階解像度の高い疑問だ。前世の彼らは伝染病により順番に亡くなっており、最後まで生き残ったのが亜梨子、輪を含む3人らしいことがわかる。そこでようやく輪の前世のエピソードに入り、「月基地の最後」が明らかになっていく。だが、それでも亜梨子は覚醒せず、その記憶だけが依然としてブラックボックスとして残り――。

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