少女漫画らしからぬバトル描く『暁のヨナ』 甘やかされて育った姫が武器を持った理由

『暁のヨナ』姫が武器を持った理由

 そんなヨナのそばに仕え、彼女の変化を見守り続けたのが、幼馴染のハクだった。「雷獣」という異名をとどろかせ、最強の戦闘力をほこるハクは、命がけで姫を護っている。ハクはこれまでは従者という身分をわきまえて、ヨナへの恋心を押し殺してきたが、ともに旅を続けるなかで隠しきれない想いを見せてゆく。ヨナもまた、スウォンへの愛憎に揺れながら、ハクへの気持ちが信頼から特別なものへと変化したことを自覚する。2人のロマンスも作品の見せ場の一つだが、ハクがヨナに告白するのは26巻と、恋愛の展開は決して早くはない。そんな2人の微妙な距離感やじれったい関係性もまた、本作の醍醐味といえよう。

 少女漫画のヒーローらしい魅力で人気を誇るハクだが、かつての友・スウォンと対峙する場面では、普段とは異なる一面をさらけ出す。第91話「彼はとても大切な友人だった」は、裏切りの夜以降、スウォンと初めて再会したハクの怒りで一話を使う異例の回となった。ハクは理性を失った獣のようにスウォンに襲いかかり、制止する周囲をなぎ倒し、自らも血みどろになるほどの暴走をみせる。激情にかられたその姿と、「あいつは あいつだけは!!!」という悲痛な叫びは、誰よりも信頼していた相手であればこその感情の発露であった。この回が収録された16巻は、ハクを語るうえで欠かせない1冊といえよう。

 今回は『暁のヨナ』序盤から中盤の展開を中心にみてきたが、物語は以後も政治や戦が絡み、より一層スケールを広げてゆく。また本稿ではシリアスなシーンを中心に取り上げたが、作中にはコミカルな表現もふんだんに登場し、そのコントラストが愉快なドラマを生み出している。貴種流離譚という王道のストーリーを軸に、ヨナに負けず劣らず芯が強い女性や、個性豊かな四龍など、魅力的なキャラクターを融合させた壮大な物語は、若い読者のみならず大人の女性にまで響く強靭さや普遍性をもっている。外出や他人との接触が制限される今だから、心をひととき遠い世界に飛ばしたくなる瞬間がある。そんな時こそ、幅広い人の心に響く『暁のヨナ』を手に取り、夢とロマンスにあふれたその世界に浸りたい。

■嵯峨景子
1979年、北海道生まれ。フリーライター。出版文化を中心に幅広いジャンルの調査や執筆を手がける。著書に『氷室冴子とその時代』や『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』など。Twitter:@k_saga

■書籍情報
『暁のヨナ』既刊32巻
著者:草凪みずほ
出版社:株式会社 白泉社
https://www.hanayume.com/sakuhin/?id=6

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