少女漫画らしからぬバトル描く『暁のヨナ』 甘やかされて育った姫が武器を持った理由
白泉社を代表する雑誌『花とゆめ』は、5月に創刊46周年を迎えた。1974年の創刊以来、多様なテーマを発信する『花とゆめ』から生まれた名作たちは、今もなお我々の心をとらえてやまない。そんな『花とゆめ』の46周年記念として発売された10・11合併号は、連載作家陣によるオールスター表紙が目印になり、本誌の“今”が凝縮されたヴィジュアルに仕上がった。この記念すべき表紙のセンターに輝いたのが、草凪みずほ『暁のヨナ』のハクである。
『暁のヨナ』は2009年に連載開始、コミックスの既刊は32巻。2014年にテレビアニメ化、近年は舞台化も展開されるなど、現在の『花とゆめ』の看板へと成長を遂げた人気作である。10年以上におよぶ長期連載となった本作だが、最新章では主人公のヨナ姫が城に帰還し、スウォンの秘事やこれまで明かされてこなかった親世代の話に切り込むなど、物語は核心に迫りつつある。今回は『暁のヨナ』を取り上げ、主要キャラクターのヨナとハクを中心に、作品の見どころを振り返ってゆきたい。
高華国の皇女ヨナは、現王唯一の子どもとして、緋龍城で大切にかつ甘やかされて育った。ヨナは長年従兄のスウォンに想いを寄せているが、普段はどこまでも娘に甘い父王が、スウォンとの結婚だけは認めない。ヨナとスウォン、そしてヨナの専属護衛を務めるハクの3人は幼なじみであり、ハクは2人に幸せになってほしいと願っていた。ところがヨナ16歳誕生日の夜、スウォンは王を殺害し、王位の簒奪をはかる。口封じのために殺されそうになったヨナはハクに助けられ、命からがら城外へ逃げのびた。王都を追われたヨナは、ハクと逃亡を続けるなかで神託を受け、建国神話に登場する四龍の血を受け継ぐ戦士を探す旅に出る。
ある日を境に、これまでのすべてを失ってしまったヨナ。城から出た彼女は、自分が1人では何もできず、世間知らずなまま生きてきたことを思い知る。そして国内外を旅するなかで、父王の極端な平和主義が高華国の弱体化を招き、貧困にあえぐ人々が王に不満を募らせていたという実情にも直面する。物語序盤の見どころは、ヨナが今までの自分を恥じて、変わろうと必死にもがき続けるその痛々しくも泥臭い姿にあるといえよう。ヨナは「私は何も知らないけど 阿呆のままいたくない」(12話)と現実に向き合い、己の弱さと無知を克服しようと奮闘する。
守られるだけの姫から抜け出すため、ヨナが学んだことの1つが、武器を持って戦うことであった。戦を忌避した亡き父王は、これまで娘に決して武器を握らせてこなかった。父の願いに背き、ヨナは生き延びるためにハクから弓を教わり、夜ごと1人で訓練を続けていく。とはいえ、弓を引くことは、すなわち命を奪うことでもある。弓を手にしたものの、殺す覚悟が定まらないヨナは、「でも父上 奪わなければ私は今 生きてゆけません」(第15話)と葛藤する。
そんなヨナに変化が訪れたのが、緑龍編だった。緑龍を探すために立ち寄った港町で、ヨナ一行は領主が人身売買を行い、人々を虐げていることを知る。ヨナたちは緑龍が身を寄せる海賊と手を組み、横暴な領主を倒すべく、戦いを繰り広げた。このエピソードのクライマックスを飾る第37話「歴史は夜つくられる」で、ヨナは仲間を救うために領主を弓で射抜き、初めて人を殺す。
『暁のヨナ』には、少女漫画らしからぬ血なまぐさいバトルシーンが登場し、激しい戦闘が作品の魅力となっている。この場面も緊迫感にあふれ、殺意を滲ませて鬼気迫る表情で弓を構えるヨナの顔には、かよわいお姫さまの面影は微塵も残っていない。物語が大きく進んだ今でも、最もインパクトのあるコマといえるほど印象的な描写であった。過酷な運命のなかで、変わらざるを得なかった少女の壮絶な姿が浮かびあがる。