純文学雑誌は転換期を迎えているーー『文藝』リニューアル成功が浮き彫りにした重い課題

純文学雑誌は転換期を迎えているーー『文藝』リニューアル成功が浮き彫りにした重い課題

 季刊『文藝』(河出書房新社)が、2019年夏季号からリニューアルした。「韓国・フェミニズム・日本」特集を組んだ同秋季号が、同誌では17年ぶりの重版、創刊号以来86年ぶりの3刷となりニュースになった。芥川賞はお祭り騒ぎになるものの、選考対象となる作品が掲載される純文学雑誌が目立って売れることはあまりないからだ。『文藝』はリニューアル後にこれまで3号を発刊していずれも好調であり、他の純文学雑誌にも刺激を与えている。

 村上春樹のように文学好きだけでなく世間的人気もある作家や、社会学者兼テレビのコメンテーターの古市憲寿などすでに異分野で有名な書き手の作品を読める号が話題になる例はある。『文藝』も2019年冬季号で文芸誌では初登場の北野武(ビートたけし)の中編を掲載した。月刊誌の場合、12月発売の新年号は毎年力が入っているが、『文學界』2020年1月号(文藝春秋)は、芸人兼作家の又吉直樹と歌手の宇多田ヒカルの対談が、巻頭にカラー頁も設けた目玉記事になっている。

 ただ、第1回文學界新人賞を受賞したデビュー作『太陽の季節』(『文學界』1955年7月号)が弟の石原裕次郎も出演して映画化され、原作者本人の髪型も慎太郎カットと呼ばれ流行した石原慎太郎をはじめ、タレント化した作家は昔から存在する。近年では羽田圭介がそうだ。他ジャンルからの参入も以前からある。ロック・バンド、ECHOESのボーカルから第13回すばる文学賞受賞の『ピアニシモ』(『すばる』集英社、1989年12月号)で小説家になった辻仁成などがすぐ思い浮かぶ。

 『新潮』2020年1月号(新潮社)は、リレーコラムでモデル・女優の水原希子が登場しているが、巻頭に長編が一挙掲載の村上龍も、2006年以来出演する『カンブリア宮殿』(テレビ東京)のイメージが強いだろう。今からふり返ると、彼のデビュー作で第75回芥川賞を受賞しベストセラーになった『限りなく透明に近いブルー』は、純文学にとって一つの転換点だったといえる。

 同作は第19回群像新人文学賞を受賞し、まず『群像』1976年6月号で発表された。作中には多くの固有名詞が散りばめられ、文学作品とともに当時はまだ若者のカルチャーだったロックへの言及も多かった。また、第22回群像新人文学賞を受賞し『群像』1979年5月号に掲載された村上春樹の第1作『風の歌を聴け』も、その種の名称が当たり前に登場したのである。

 彼らより上の石原慎太郎の世代にもジャズへの言及がみられたが、W村上以降の小説には、それ以前の文学が扱わなかったサブカルチャーの影響が濃くなっていく。小説のなかで言及されるだけでなく、1980年代以降の純文学雑誌では、音楽、映画、マンガのほか、ミステリやSFなど異分野を対象にした評論や特集が載る機会が増える。2000年代以降は、ライトノベルやケータイ小説も扱われた。

 他ジャンルとの接触で活性化を図るのは、純文学雑誌の伝統なのだ。

 例えば『文藝』2019年冬季号の特集は「詩・ラップ・ことば」だが、『文藝』2000年春季号の特集は「J-POPで日本論」だった。音楽との関係で文学を考えるのは、同誌のお家芸になっている。

 『文藝』2019年夏季号のリニューアルでは、SNSでの情報拡散を考え「文ちゃん」というキャラクターのイラストを使った表紙のGIF動画をネットにアップしたのだという。時代にあわせてデザインをよりポップにするという意識は、同誌が「J文学」なるワードを掲げていた1990年代後半にもみられた。常盤響の写真を用いた当時の表紙は、同時代のJ-POPのCDジャケットと同質の印象を与えるものだった。今回のリニューアルを行った坂上編集長は、新しさの追求は『文藝』の伝統と繰り返し述べている。

 他の純文学雑誌は、『文藝』のリニューアル成功をかなり意識しているらしい。

 創刊50周年特集の『すばる』2020年1月号では、同誌のデザインを担当する重実生哉とリニューアル後の『文藝』のデザイン担当の佐藤亜沙美が対談している。また、この号からリニューアルした『群像』2020年1月号では、同誌をデザインすることになった川名潤のコラム連載がスタートして同誌創刊号について書いているが、次回は『文藝』のデザインを考察すると予告しているのだ。

 その『群像』1月号の後記で戸井武史編集長は、リニューアルは「文」×「論」をテーマにした総合雑誌化だと説明する。論壇誌の減少を踏まえ、同誌でルポ、ノンフィクション、インタビューなどを増やすという。戸井編集長の後記には、「今号から『群像』はリニューアル、再起動します」ともある。『文藝』のリニューアルが表紙に「文芸再起動」と銘打っていたのと言葉が重なっている。

 『文藝』のリニューアルでは、デザインの一新に加えて特集主義を復活させるとともに、論考、コラム、エッセイなど小説以外の充実を図ったのが大きかった。雑誌ならではのバラエティを強めたのだ。また、特集についてはかつての同誌のような作家特集ではなく、「天皇・平成・文学」、「韓国・フェミニズム・日本」、「詩・ラップ・ことば」とテーマを設定する形をとった。

 それに対し、リニューアル直後の『群像』1月号は、歌舞伎の新年顔見世興行的な短編特集だが、「文」×「論」を打ち出したからには、今後はやはりテーマを設定する形になると予想される。他の純文学雑誌をみても、近年は特定のテーマを掲げた特集や企画が多いように思う。

 誌面で他のジャンルを扱ったり、小説以外のバラエティを意図した特集を組むのは、基本的にあまり売れないものである純文学雑誌を少しでもより広い層に売って商業的に延命するための手段でもあるだろう。数ある文学賞のなかで、書店員が選ぶ本屋大賞が店頭で目立つものになっている。同賞への注目は、私には街なかの書店が減っている出版不況の反動に思える。“あなたも私も小説が好きだね、本屋が好きだよね”と、仲間うちでなぐさめあう風景にみえるのだ。本好きの自己愛をくすぐるイベントに思える。

 『文學界』2020年1月号は、23人がそれぞれテーマにあわせ10冊を選ぶ特集を組んでいる。本や読書の特集は珍しくないが、作家各人が店長となり「文學界書店」をオープンするという特集のありかたは、本好きの仲間うち感覚が伝わってきて微妙な気持ちになる。純文学以外のジャンルを誌面に招きいれ場を開こうとしているかにみえて、わかりあえる同士で閉じているようにもみえる。この種のもどかしさは、他の文芸誌にも感じる。

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