『虎に翼』轟を好演・戸塚純貴「文通するように回を重ねた」くどうれいんとの共著『登場人物未満』創作秘話
![俳優 戸塚純貴『登場人物未満』インタビュー](/wp-content/uploads/2025/01/20250130-junkikudorain-04.jpg)
『だが、情熱はある』のオードリー・春日役、朝ドラ『虎に翼』主人公・寅子の同級生・轟役など、話題作で印象的なキャラクターを巧みに演じ、近年注目を集める俳優・戸塚純貴がくどうれいんとの共著『登場人物未満』(KADOKAWA)が刊行された。
『登場人物未満』(KADOKAWA)は、都内の遊園地や釣り堀、ボードゲームカフェなど各所で撮影された戸塚の写真をもとに、作家・くどうれいんが物語を生み出す、というコラボ企画。『ダ・ヴィンチ』で2023年から約1年連載された本企画が書籍化となった。本書の発売を記念して、戸塚純喜にインタビュー。連載時の撮影エピソードや制作の裏側について語ってもらった。
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「くどうさんの想像力が膨らむような写真を撮影していった」
――〈まさかこんな形で、書籍を出させていただくとは。〉と「はじめに」で書かれていますが、おもしろい試みの一冊ですよね。どんな物語を書かれるかわからないまま、最初に写真だけを撮るというのは、どんな心持ちで臨むものなんでしょう。
戸塚純貴(以下、戸塚):とにかく、くどう(れいん)さんが想像力を膨らませられるようなものであってほしいな、と。基本的に、僕がひとりで何かをやっている姿を撮る、というコンセプトだったんですけど、背景や使っているアイテムも含めて、情景ごとおもしろがってもらいたいと思っていました。どんな物語にすればいいんだろう、とあれこれ考えをめぐらす時間すらも、くどうさんに楽しんでもらいたかったから。
――ああ、だから、どの写真も空間が生かされているんですね。
戸塚:何かの役を演じるというわけではないので、その場所に自然体でなじもうと。かといって、素の僕をさらけだすというわけではないので、用意された景色や洋服、目の前にあるものに身をゆだねることで、引き出されるものもあるのじゃないかとも思いました。くどうさんが何か引っかかりを覚えるよう、喜怒哀楽のいろんな表情をつくっていたと思います。だから、物語の内容だけでなく、「くどうさんは、その一枚にピンときたんだ!」という驚きも毎回、ありましたね。
――決めの一枚をお渡しするのではなく、物語に添える写真も、くどうさんが選んでいたんですね。
戸塚:Vol.5の「めぐちゃん」は遊園地で撮影したんですけど、笑顔の写真を選ぶんだ~とけっこう意外でした。どちらかというとシュールな表情を浮かべている写真のほうが多かったのに。しかも、物語の内容は、終わってしまった恋愛。そんなふうに、くどうさんの目には映ったんだなあと新鮮でした。いちばん意外だったのはVol.10の「みゆ」ですが。
――「やっぱりみゆのこと好きで、みゆと元に戻りたいから地獄に来ましたあ」と元カレがスマホに送ってきた写真、というていの一枚。これ、めちゃくちゃいい写真で、めちゃくちゃいい物語ですよね。
戸塚:正直、なんの脈絡もなく写真を撮ったんですよ。溶岩の前で、全身白のラフな格好で、両手を広げて。こんな写真から恋愛要素が膨らんでいくことなんてあるんだ、とびっくりした。「めぐちゃん」よりド直球の物語だったから、照れくさくもありましたね。毎回、小説に対するアンサーの文章を僕が書いていたんですけど、それも恋愛的な内容にしなくちゃいけないのかなって……。苦手なんですよ、そういうの(笑)。
――確かに、戸塚さんが恋愛を語っているところは、あんまりイメージにないですね。
戸塚:自分の経験を書くのも、完全にフィクションで書くのも、どっちもこっぱずかしいなあって。かといって、まるで実感のないことを書くと、読者の共感が得られないかもしれない。最初は戸惑いましたけど、やっぱり、くどうさんの書く物語には力があるんですよね。みうという女の子のまなざしを通じて、元カレがどういう人間なのか、彼女とどんな関係を育んできたのか、ありありと浮かんできましたし、僕の想像力も刺激された。わりとすぐに、アンサーを書きあげることができました。
――アンサーの文章は、どれもとてもよかったですよね。くどうさんが戸塚さんに与えた役の視点で書かれているものもあれば、物語そのもののイメージで俯瞰的に、抽象的に描かれているものもあって。
戸塚:最初は、すべて小説とは関係のない文章にしようと思っていたんですよ。でも、途中から、くどうさんのつくりあげた世界観に乗っかるのが楽しくなってきて。そもそも文章を書くのに慣れていなくて、技術も余裕もなかったから、その場その場で書けるものを書くしかなかったというのもあるけれど、次はどんな球を投げてくれるんだろうとわくわくしながら、文通するような気持ちで回を重ねられたのが、結果的にはよかったような気がしますね。
――同郷、ということで通じ合うものもあったのでしょうか。
戸塚:ありました。とくにVol.7~12は盛岡で撮影していて、Vol.7はカワトクという僕らにとって馴染み深いデパートの屋上での一枚なんですよ。まさか犬目線で小説を書いてくるとは思わなかったけど(笑)、同時に腑に落ちるものがあって。実家の思い出に紐づいた場所だからこそのあたたかみがあったというか、いろんな感覚が嚙み合った気がしたんですよね。
――地元で撮影すると、やっぱりその場にもなじみやすかったりするのでしょうか。
戸塚:安心感はありましたね。ただ、毎日の通学路だった道で、衣装を着て撮影してもらうのは、ちょっと不思議な気分でしたけど(笑)。あとはけっこう、地元の思い出が邪魔をして、なかなか文章を書けないってこともありました。この書籍ならではの、新しさを生み出したいのに、どうしても過去に引っ張られてしまう。