漫画家の終活問題 SNSで話題 貴重な手描き原稿損失の恐れも……管理・保管はどうするべきか

■漫画家の原稿をどう残すべきか

photo:miika laaksonen(unsplash)

  週刊誌やWEBメディア、ワイドショーなどで連日のように取り上げられる“終活”だが、最近注目されているのが漫画家の終活である。一時代を築いた漫画家は、膨大な量の原稿を所有していることが多い。その原稿を終活の一環として、ネットオークションやイベントで販売する漫画家が増えているのだ。終活はもちろんだが、生活に苦しんでいる漫画家も多く、生活費の足しにしたいという思いで原稿を手放す人もいるという。

  近年、ネットオークションに漫画家の原稿が出品されているのを見かける。これは、漫画家本人が出品しているケースが少なくない。ある漫画家は、好きな人のもとにわたってくれればということで、原稿を手放していると聞く。オークションの入札を代行する業者が落札している例もみられ、相当な数が海外に流出していると思われる。

 海外に原稿が流出することについて、意見は様々である。「好きな人のもとに行くならいい」「捨てられるよりはるかにいい」「それだけ日本の漫画が評価されている証拠」と肯定的に捉える人もいれば、「貴重な文化遺産の流出」「浮世絵みたいに、海外にいいものがわたってしまうのは日本にとって損失だ」と嘆く人もいる。

 近年、日本の文化遺産として注目されつつある原稿をどう保存していくのか、大きな課題となっているが、受け入れ体制は十分ではない。「横手市増田まんが美術館」のように漫画原稿の寄贈を受け入れている施設もあるが、キャパシティには限界があるだろうし、自治体の博物館や美術館でも受け入れはほとんど行われていない現状がある。

■遺族が原稿を捨ててしまう危険性

  原稿は出版社から返却された後は、作家本人が管理を行うのが基本である。そのため、扱い方は漫画家によって大きく異なる。しっかりと金庫や自宅に保存スペースを設けて管理している人もいれば、出版社の封筒に入れたまま押し入れに突っ込んでいる人も少なくない。そのため、保存状態もまちまちである。

  筆者が原稿を見せてもらったある漫画家の場合、紙が劣化して変色し、トーンがはがれ、さらに湿気か雨漏りの跡なのか、染みが発生していた。原稿に執着はないといい、引っ越しの時にかなりの枚数を捨ててしまったと話していた。なんともったいないことを、と思った。

  遺族が、原稿に理解があるとは限らない。例えば、あるアニメーターが残した絵や資料を、遺族がすべてゴミに出してしまった例もある。そのアニメーターはある事件で亡くなってしまったが、遺族は「見るのがつらい」と言い、思い出の品を処分したようだ。そのなかにはかなり貴重な資料が含まれていたと考えられるだけに、残念な出来事であった。

  かつて、里中満智子氏が提案し、国が設立を計画していた「国立メディア芸術総合センター」が様々な理由で頓挫したことは非常に残念である。もし開館していれば、かなりの数の原稿を守ることができたに違いない。今後、それに替わる施設の整備も計画されているようだが、一刻も早い開館と原稿の受け入れ体制の構築が求められる。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる