「フィギュアスケート漫画」なぜ傑作が多い? 話題作『メダリスト』に至るまでの過去の名作たち

『メダリスト』以前のフィギュアスケート漫画

 つるまいかだの漫画『メダリスト』(講談社)が2025年1月からのTVアニメ化により注目を集めている。2016年10月にアニメ化された『ユーリ!!! on ICE』(テレビ朝日)でも盛り上がった「フィギュアスケート」が題材の作品で、小学5年生の女の子が大好きだったフィギュアに挑戦してぐんぐん上達していくストーリーが、読者の応援したくなる気持ちを刺激する。

 振り返ればフィギュアを題材にした漫画やアニメは幾つもあって、『七つの大罪』(講談社)が大人気となる前の鈴木央も、『ブリザードアクセル』(講談社)でフィギュアというスポーツの熱さを伝えていた。フィギュア漫画の面白さと『メダリスト』のこれからを探ってみた。

1978年から「別冊マーガレット」で連載された『愛のアランフェス』

 野球漫画にサッカー漫画にテニス漫画にゴルフ漫画。そこにスポーツがあれば必ず漫画に描かれるくらい、世間には無数のスポーツ漫画が溢れて、読者にそれぞれのスポーツの魅力を伝えている。インドで盛んなカバディにも『灼熱カバディ』という漫画があるほどだ。人気のフィギュアスケートになら漫画は幾つもあって、漫画史に刻まれる傑作も登場している。代表例が槇村さとる『愛のアランフェス』だ。

 女子フィギュアスケート選手・渡部絵美が1976年のモントリオール五輪に出場し、国民的な人気を得ていた1978年から「別冊マーガレット」に連載された少女漫画。天才少女フィギュアスケーターとして注目を浴びた森山亜季実と、ケガでリンクから遠ざかっていた黒川貢が出会い、それぞれに厳しい経験をしながらお互いを求めるようになっていく、というストーリー。

 すでに山本鈴美香の『エースをねらえ!』(集英社)が大人気となっていて、スポーツが題材の少女漫画にファンの関心が向けられるようになっていた時代。技術だけでなく芸術性も強く求められるフィギュアというスポーツで、なおかつ男性と女性が組んで臨むペアを題材にしたことで、少女漫画のファンが求める美しさへの憧れと、恋愛への関心を共に満たしてくれる漫画として受け入れられた。

1986年登場の川原泉『銀のロマンティック…わはは』の革新性

もっとも、『巨人の星』(講談社)や『アストロ球団』(集英社)が野球漫画に熱血やスポ根といった印象を強く刻みつけたにも関わらず、あだち充が『タッチ』(小学館)でラブコメの要素を入れながら、スポーツものとしても存分に面白い作品を描けることを示したように、フィギュア漫画も『愛のアランフェス』をスタンダードにしない革新が繰り出された。1986年登場の川原泉『銀のロマンティック…わはは』(白泉社)だ。

 名門お嬢様学校に通う生徒が奇天烈な行動を見せて笑いを誘う『笑う大天使』(白泉社)の作者だけあって、『銀のロマンティック…わはは』も題材はフィギュアだがジャンルはコメディ。世界的バレエ・ダンサーを父に持つが優雅さに欠ける高校生・由良更紗と、スピードスケートのホープだったがケガで引退した影浦忍が出会い、ペアを組んでフィギュアに挑むと。運動神経だけは抜群な2人がスピーディでパワフルな演技を見せ、選手層の薄さも手伝って世界に挑むくらいになっていく展開は、始めた年齢の高さも含めて今なら嘘だと言われてしまうかもしれない。

 『メダリスト』で主人公・結束いのりがフィギュアを始めようとした小学5年生ですら「プロを目指すにはギリギリの年齢」と言われてしまうのが、今のフィギュアスケート界のリアル。ましてや『銀のロマンティック…わはは』の忍は、同じスケートでもスピードスケートの選手で、ダンスもジャンプも素人だ。そこはコーチや更紗の父の特訓で見られる選手に仕立て上げられ、持ち前の筋力でジャンプもこなせるようになったといった展開で、一応は納得できるようにしている。

大ヒット作『七つの大罪』鈴木央が20年前に描いた『ブリザードアクセル』

 そもそもコメディにシリアスさを求めるのが間違っていると言えば言えるが、『銀のロマンティック…わはは』は展開に、大会で勝つためにペアで4回転(クワドラプル)アクセルに挑むというスポ根的な試練を持ち込み、驚けて泣ける物語へと向かわせる。嬉しくもあって寂しくもあるラストシーンは、読んだ人の記憶に永遠に刻まれるほどの感動を誘う。エンタメ性と競技性、ギャグとロマンが混ざり合ったフィギュア漫画の可能性を見せたという意味で、後の『ブリザードアクセル』や『メダリスト』に繋がる漫画と言えるだろう。

 実際、『ブリザードアクセル』で中学1年生になって始めて滑ったスケートで、四回転半のジャンプを跳んでしまった主人公・北里吹雪の非常識ぶりは、『銀のロマンティック…わはは』の忍と重なるところがある。「目立ちたい」という気持ちからケンカに明け暮れていた吹雪が、偶然出会ったフィギュアに興味を持つようになり、名門フィギュアクラブに特待生として入り、みるみるトップ級の滑りを見せるようになる展開は、忍ほどではないにしても現実にはなかなかあり得ないものだ。

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