ラランド・ニシダ、小説『ただ君に幸あらんことを』変化していく家族カーストを描いた想い

ラランド・ニシダ 2作目小説インタビュー
ニシダ 『ただ君に幸あらんことを 』(KADOKAWA)

 お笑いコンビ・ラランドのニシダ氏が「家族」をテーマとした新刊小説『ただ君に幸あらんことを』(KADOKAWA)を刊行した。

表題作では、過度に教育熱心ないわゆる「毒親」の母を持つ兄妹の物語が描かれる。大学受験期に母からひどい扱いを受けた「僕」は、現在は6歳年下の妹が同じ苦しみを受けていることに心を痛める。そこで一人暮らしの自宅に妹を避難させ、母との間に入って守ろうとするものの、彼自身も過去の傷がうずき出し――。

そんないびつな家族の物語を描いた背景について、ニシダ氏にじっくり話を聞いた。

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実体験をヒントにした「学歴と家族」をテーマに

――今回、家族をテーマにしたのはなぜでしょうか。

ニシダ:この小説は実話ではないんですが、自分が経験して思っていたことが出発点にあります。自分も小説と同じように年の離れた妹がいるんです。そこに父と母がいるという家族構成も同じです。妹はかわいいし好きなんですが、この小説ほどに兄妹で頼り合うような関係性ではないですね。そこは極端に描きました。

――ニシダさんはご両親とあまり仲がよくないことが知られていますが、その経験も投影されていますか。

ニシダ:もちろん多少ありますね。昔から父も母も教育熱心で、勉強をしないといけないというプレッシャーを感じていました。ただ自分の大学受験は主人公の状況とはちょっと違って。僕は1浪して上智大学に入って、両親としては満足しているような雰囲気でした。でもその後、退学することになったので、すべてが台無しになったんですが(笑)。

――大学は2回退学されたそうですが、なぜそうなったんでしょうか。

ニシダ:僕の場合、1浪して大学に入学して、3年通って1回退学して、1年後に再入学して2年通って、2回目の退学をしました。つまり、浪人を含めると7年もかけて、高卒になったという状況です。

 学部は外国語学部だったんですが、厳しい学科で必修単位を2年連続で落とすと退学になるルールがあったんです。自分はロシアやドイツの近現代史など世界史系の授業は好きで出てたんですが、面白くない授業はサボってたんですよね。

――退学したとき、ご両親とはどんなやりとりがありましたか。

ニシダ:急に大学から退学通知が家に届いたんです。「緊急」と記された真っ赤な封筒で、まるで赤紙でした。僕はもちろんあらかじめわかっていました。でも普段からそんなに両親とコミュニケーションを取るタイプじゃなくて。だから何も話さずに、赤紙の日を迎えてしまいました。

 これはどうしたもんかなと思って。そこで2日家に帰らずに「こいつ自殺するんじゃないか」という雰囲気を出すことによって、心配が勝った状態で迎えられようと思ったんですよ。それで2日ぶりに家に帰ったんですけど、親は全然新鮮に怒っていました。「退学とはどういうことだ!」と。

 うちの大学には再入学制度があって、語学の試験、面接、小論文などでもう一度入学できるようでした。当時はもうお笑いサークルで相方と活動していたんですけど、それと平行して1年間準備をして、無事再入学することができました。


――しかしもう一度、退学してしまうと。

ニシダ:再入学をした初日にガイダンスがあったんですけど、まあいいだろうと思って行かなかったんですよね。「一回入学してるから知ってるし」と思って。後輩がまだ大学に通っていたので「戻ってきたぜ」なんて言って、飲みに行っていました。

 うちの大学は入学して2年で取らないといけない単位数が決められていました。でも、一度目の在学時の単位の持ち越しができていたので、自分は大丈夫だと思ってたんですよ。むしろ卒業する単位には余裕があるなと。でも、あとから気付いたんですけど、その持ち越しの単位は適用範囲外だったんです。それは実は初日のガイダンスの日に話していたみたいでした。

 それで「やべえ、退学になる!」と思って。また親には黙ってヘラヘラしてたんですけど、結局、2通目の赤紙の日を迎えました。当時「M-1グランプリ2019」の敗者復活戦や20年年始の「おもしろ荘」など、テレビに出させてもらうことが出てきた時期でした。親にはお笑いをやっていることは話していなかったんですけど、妹から聞いたのか、どうやら知っていたようでした。そんなタイミングに赤紙が届いて、しかも親はお笑いをやるということに対しても理解がなくて、「お前は出禁だ!」と言われたんです。

――実家を出禁になってしまったと...。お話を聞いていると、今回の小説と通ずるところが多いように思います。本作はどのように着想が生まれましたか。

ニシダ:最初は兄妹で家庭内順位が変動するということを書きたかったんです。つまり、主人公は高校や大学はいい学校に行ってなかったんですけど、就活がうまくいって一流企業に入ったために、母親からの評価はいきなり上がりました。

 一方、妹はちゃんとした私立の中高に行ったのに、大学受験がどうやらうまくいかなそうである。そこで親が学歴に対して抱く思いは、僕自身が実体験として知っているところもありました。

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