分島花音×千葉"naotyu-"直樹×大野真樹『AZNANA』鼎談 ゲームの世界観に寄り添った楽曲が完成するまで

『AZNANA』音楽にまつわる特別鼎談

楽曲に合わせて描かれたエンディングのシーン

ーー作品のBGMについても聞かせてください。まず、少年とアズナナが自転車で移動する際のBGM「Let’s Roll」は、どんなふうにつくっていったのでしょう?

分島:リファレンスをいくつかいただきつつ、作品の世界観的にエレクトロジャズの雰囲気が合うと思ったので、そういう雰囲気にしたいですね、とお話しました。あとは、自転車で坂をこいでいくようなメロディにしたかったので、途中で音がちょっと詰まるような箇所をつくって、そこからガガガッと進むようにしています。移動中はタップして缶を回収するという話も聞いたので、打楽器も缶を叩くようなサウンドにしていただきました。

ーースクラッチっぽい音も入っていますよね。

千葉:あの辺りは、エレクトロジャズ~エレクトロスウィングの雰囲気を出すものとして入れました。『AZNANA』の音楽は最先端にはしたくないと思っていて、いい意味で「何年代の音楽か聞かれても分からない」というものにしたかったんです。

大野:賑やかな雰囲気で、でもうるさくはない音楽で。ゲームミュージックは作品内で何度も繰り返し聴くことになりますが、この曲は開発中に流していても全然飽きなくて、「いい曲だな」と思いながら聴かせていただきました。聴いていて楽しい気持ちになる曲ですよね。また、この曲にはテンポが速くなるフィーバーモードもありますが、これは途中で入れたくなって追加でお願いしました。

ーーフィーバーモードでは、BPMが速くなり、メインを執る楽器も変わっています。

千葉:ほとんど僕にお任せでつくらせていただきました。最初に「速いバージョンがほしいです」という話が来たときに、急にテンポが変わった場合、音の繋ぎは大丈夫なのかと心配もしたんですが、すごくスムーズに切り替えてくださいました。

大野:通常のモードとフィーバーモードをシームレスに繋ぎたいという欲求があって、たしか千葉さんのアイデアで、自転車の「チャリンチャリン」というベルの音を挟む案が出てきました。フィーバーモードに入るときと出るときに、ベルの音が鳴っています。

ーーショッピングBGMの「Deal」についてはいかがでしょう?

分島:これもリファレンスをいただいたんですが、それがちょっとムーディな雰囲気で。全体がエレクトロスウィングやエレクトロジャズになっている中で、密売のやりとりじゃないですけど、お洒落なところでひっそりと売り買いするようなニュアンスでつくりました。

大野:自転車のBGMが流れていて、降りたところでそのまま流れる音楽として、場面が変わったことが分かりやすいようにしたかったんです。それで、このBGMは「ムーディなものでお願いします」とオーダーしました。

分島:最初はもっとウキウキした可愛い感じにしようかと考えていたんですけど、そのお話を聞いて「なるほど」と思って考え直していった曲ですね。

ーースカベンジ(ゴミ漁りのボーナス的なミニゲーム)のBGMはどうですか? 「ジャックポット」というタイトルからは、がれきの中から一攫千金の宝物を見つけるようなイメージが浮かびます。

分島:シーン的に「チャンスの場面で使います」と聞いていたので、ハッピーな雰囲気というよりも、攻め攻めな曲にしたいと思っていました。それで、エレクトロジャズっぽいスウィング感を残しつつ、攻めた楽曲にしていきました。そこに、ダメだと言われてたら省こうと思いつつ、私の方でスキャットを入れていて。お渡ししたところOKが出たのでそのまま採用しています。「何でもやっていいんだな」と思いました(笑)。

千葉:(笑)。分島さんからいただいたデモの段階ですでにラフなスキャットが入っていて、それをそのまま使ってみました。この曲では綺麗に録り直さない方がいいと思ったので。

大野:『AZNANA』では、エンディングで「Goodbye to Boredom」の分島さんによるボーカル入りのバージョンが流れますが、プロデューサーとしても、それまで分島さんの歌がゲーム内で聴けないのは寂しいと感じていました。そこでスキャットがあるような音楽のリファレンスを送ったところ、分島さんが入れてくれたので、こちらとしても「よかったな」と。この曲はSNSなどを見ている限り、ユーザーに一番人気の楽曲ですね。

ーーお話を聞く限り、制作はすごくスムーズに進んでいったように感じますが、特に苦労したパートはありますか?

分島:苦労したのはきっと千葉さんです(笑)。

千葉:いえいえ(笑)。ただ、今回はゲーム内のSE(効果音)にもかかわらせていただいて、ほとんど初挑戦だったので、そこは苦労したかもしれません。缶が「コン!」と鳴る音もそうですし、自転車の「チャリンチャリン」というベルもそうですし、実際にマイクを立てて夜な夜な音を録っていました。ですが、缶の音がほしいときに缶の音をそのまま録音しても、いい音にはならないんですよ。それで他のものも色々と試して工夫しました。

ーーたとえ缶の音ひとつだとしても、ゲーム内では何度も繰り返し聞く音になると思うので、一つひとつの音が非常に大切になりそうですね。

大野:そうですね。作品として、主題歌やBGMもすごく綺麗につくっていただいたので、何度も聞く空き缶のタップ音がフリー素材のような音だったりするともったいないと思ったんです。そこで可能なら、音楽を担当いただいた千葉さんにセットでつくっていただきたくて。音楽をつくってくださった方々だからこそ、そのバランスも見ながら担当していただけるのかなと。

千葉:自転車の「チャリンチャリン」の部分はリテイクがありましたよね(笑)。

大野:きっと「何が違うねん……!」と感じてらっしゃったと思うんですけど(笑)。

千葉:一時期はBGMの中にも自転車のベル音を入れていたんですが、SEとかぶってしまうから外しておきましょう、となるなど、主題歌もBGMもSEも同じチームで担当できる座組だったからこそ、全体を見ながら作業できたのがすごくよかったと思います。

大野:今回、最初にオーダーさせていただいてからずっと、自分が想像していた以上の楽曲を毎回上げていただいた印象で。お2人の音楽が『AZNANA』という作品の世界観を広げてくれた感じがしています。ずっと聴いていても飽きない、すごくいいBGMにしていただきました。自分の場合、最初に作品の構想をイメージしていくときに、ある程度の音楽の雰囲気も含めて考えていくことが多いんですが、今回は分島さんにお願いすれば、きっといいものに仕上げてくれるだろうと思っていました。

ーー特に大野さんのお気に入りの楽曲はありますか?

大野:やっぱり、ゲームの最後に初めてボーカル入りで流れる「Goodbye to Boredom」ですね。

-ーそれまでは、少年とアズナナの物語が進むパートでインストが流れていますよね。

大野:そうなんです。そして最後のシーンでだけ、分島さんのボーカル入りの楽曲が流れるという演出になっていて。これは今回僕が絶対にやりたいと思っていたアイデアでした。このシーンでは曲をフル尺で使っていて、楽曲に合わせてコンテを書いています。つまり、完全にこの曲ありきで生まれたエンディングになっているんです。

分島:すごく嬉しいです。音に合わせて綺麗にまとめてくださって感動しました。

大野:エンディングには少年とアズナナが、町を出たあとのちょっと先の未来の話も入れています。このあたりの物語のゆくえも楽しみにしていただきたいですし、楽曲に合わせて映像が流れるようにこだわってつくったので、このシーンはぜひプレイしてみてください。

ーー改めて、『AZNANA』での制作は、みなさんにとってどんなものになりましたか?

大野:『AZNANA』というゲームは大きなゲーム会社さんがつくった100時間以上遊べるような大作ではありませんが、丁寧につくったゲームで、「読後感のいい作品にしよう」と考えていました。すべてプレイしていただいた後に、何か残せるものがあったらいいな、あの2人の物語を読んでもらった感覚になってもらえたら嬉しいな、と思っていたんです。音楽については、今回リテイクをほとんど出す必要がない状態で、上がってきた音楽をゲームに実装しては、「最高だな」と感じていましたね。

千葉:今回お話させていただいたように、音楽についてもすごく丁寧にやりとりをしながらつくらせていただいた作品で、一つひとつお話をしながらつくることができて。ゲームはもちろんのこと、音楽も楽しんでいただけると嬉しいです。

分島:ゲームの音楽で、BGMも含めてこれだけトータルで楽曲を書かせていただいたのはほとんど初めてだったので、自分にとってすごくいい経験になりました。私の場合、その時によって表現したいことが変わるのですが、今自分が表現したいことや試してみたい音楽の方向性と、リクエストをいただいたものがぴったりと合ったことが嬉しかったですし、作品の世界観をアシストできるような音楽をつくらせていただけて、すごく良かったです。

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■関連リンク
『AZNANA』公式サイト:http://caracolu.com/app/aznana/
分島花音 公式サイト:https://www.wakeshimakanon.com/
千葉"naotyu-"直樹 Twitter:https://twitter.com/naotyu_ch

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