JUJU、SixTONES、乃木坂46……福田貴史×若田部誠のクリエイターとしてのスタンス ヒット曲に必要な条件も語る

福田貴史×若田部誠、ヒット曲に必要な条件

 JUJU「ただいま」(作曲)、SixTONES「Fast Lane」(共作曲・編曲)など幅広いアーティストの楽曲を手がける福田貴史、前田敦子「Flower」(作曲)、乃木坂46「バレッタ」(編曲)など女性アーティストのヒット曲に数多く関わっている若田部誠。J-POPシーンの最先端で活躍する両者に、作家として活動を始めた経緯、ターニングポイントとなった楽曲、クリエイターとしてのスタンスなどについて語り合ってもらった。(森朋之)

いつも心がけているのは楽しんで作ること

ーーまずは福田さん、若田部さんの音楽的なルーツから教えていただけますか?

福田貴史(以下、福田):子どもの頃からクラシックピアノを習っていたのと、さだまさしさんが好きだったんですよ。母親が「歌詞がいい」って言ってて、その影響で僕も聴くようになって。子どもだったから歌詞はよく理解できなかったんですけど(笑)、いま振り返ってみると、バックの音やアレンジに惹かれていたのかもしれないですね。特に弦が入っている曲が好きだった気がします。

若田部誠(以下、若田部):さださんご自身もバイオリンを演奏するよね。

福田:そうそう。これも母親の影響なんですが、サイモン&ガーファンクルも好きでした。当時流行っていたものでいうと、CHAGE&ASKA(現CHAGE and ASKA)。「SAY YES」を聴いて「めっちゃいい曲だな」と思って、アルバム(『TREE』/1991年)を買ってもらったんですよ。1曲目(「僕はこの瞳で嘘をつく」)が、当時の自分の感覚では激しめのビートの曲に感じて衝撃を受けて。

若田部:僕も似てますね。小さい頃からクラシックピアノをやっていて、流行ってる音楽はあまり聴いてなくて。唯一聴いていたのが、親の車で流れていた曲。特に稲垣潤一さんの曲は、いいなと思ってましたね。あとはYMO(YELLOW MAGIC ORCHESTRA)。父親がカセットテープをくれて、そのなかにYMOのメドレーが入っていたんですけど、すごいと思って。テクノやミニマムミュージックというより、メロディの良さだったり、楽曲の流れや転調に惹かれたんだと思います。それがきっかけでシンセサイザーに興味を持って、高校に入ったときに親に買ってもらったんですよ。当時は“小室ブーム”だったから、小室さんがプロデュースしていたYAMAHAのEOSを買いました。

ーー小室哲哉さんが手がけていた楽曲も聴いていたんですか?

若田部:そうですね。安室奈美恵さんとか。

福田:当時はチャートがおもしろかったですからね。毎週のように新しいヒット曲が生まれて。

若田部:プロデューサーが活躍してた時代ですよね。小室さんもそうだし、小林武史さんとか。みんながCDを買っていたし、すごく音楽が聴かれていて、熱気がありましたね。

福田:「NOWシリーズ」(洋楽のヒット曲を集めたコンピレーションシリーズ)も大好きでしたね。チャートが好きだし、ヒット曲に興味があるんですよ。それは子供の時から変わらないです。

ーー作家、クリエイターを志したのはいつ頃ですか?

若田部:僕はけっこう早かったです。シンセを買ってもらって、すぐに曲を作りはじめて。バンドをやったこともあるんですけど、人前で演奏するよりも作るほうに興味があったし、そっちのほうが楽しかったんですよ。

若田部誠

福田:僕は二十歳くらいの頃に、親戚のお姉さんに「Mac使ってみたら?」と教えてもらったのがきっかけですね。うちはアナログの家系(福田の父、母、兄は和楽器奏者)なので、デジタルに疎いんですよ。そのときはじめてDTMに興味が沸いて。もちろん、今の制作環境のほうが遥かに便利なんですけど、パソコンで曲を作るということにビックリしたんですよね。それまでMTRなども使ってなかったので。

福田貴史

若田部:EOSは32トラックのMIDIシーケンスも使えて、MD4Sというマルチトラックレコーダーで4トラックまでオーディオ録音できたから、宅録みたいなこともやってたんですよ。でも、大学生のときに秋葉原でソフトシンセだけで完結した音源を聴いて、「こんなことができるのか」と。それまではシンセを外付けして、実際に鍵盤を弾きながら作ってたので、「パソコンですべて完成させられるのか?!」と思って。当たり前ですけど、雑音とかもまったく入らないじゃないですか。

ーーDTMの進化のプロセスも経験しているんですね。プロとして活動しはじめたきっかけは?

福田:SDグループ(ソニー・ミュージックエンタテインメントの新人開発・発掘セクション)のオーディション(『Sony Music Creators Audition』)ですね。その前からデモ楽曲をいろんなところに送っていたんですが、ほとんど反応がなくて。いま考えると、その理由もわかるんですけどね。ぜんぜんダメだったなって(笑)。

若田部:(笑)。僕もまったく同じで、SDのオーディションで採用してもらったのがきっかけです。最初は自分のグループで育成アーティストになったんですが、それはあまり上手くいかなくて。その後、作家として活動しはじめました。

ーー作家としての最初の仕事は?

若田部:いくつかあるんですが、いちばん注目してもらえたのは、2010年のSDN48(アンダーガールズB)の「佐渡へ渡る」ですね。その翌年から、採用される曲が増え始めたので。

福田:Spontaniaというユニットの楽曲制作を一緒にやったり、九州電力のCM曲を作ったのが最初ですね。インパクトが大きかったのは、JUJUの「ただいま」(2012年/ドラマ『もう一度君に、プロポーズ』主題歌)の作曲ですね。かなり急ぎのコンペで、3〜4日後が締め切りだったんですよ。ドラマの内容をふまえて、“こういうテイストの曲がいい”という具体的な発注だったんですが、とりあえず作って提出したら、採用してもらえて。仮歌を自分で歌っていたし、自信はなかったんだけど、嬉しかったですね。

JUJU 『ただいま』

ーー若田部さんのターニングポイントになった楽曲は?

若田部:いくつかありますね。前田敦子さんの「Flower」(2011年/前田敦子のソロデビュー曲)だったり、乃木坂46の「バレッタ」(2013年)、AKB48「翼はいらない」(2016年)もそうだし。作曲、編曲に関わらず、表題曲になって、数年経ってもテレビから聴こえてくる曲は転機になってますね。

ーー「Flower」「翼はいらない」は、素朴な手触りの楽曲。特に70年代フォークソングを想起させる「翼はいらない」はインパクトがありました。

若田部:(70年代フォークを)狙って作ったところもありますね。確かにそれまでのAKB48の楽曲とはかなりイメージが違いますけど、『選抜総選挙』の投票券が入っていたシングルは、けっこう冒険している曲が多いのかなと。僕が編曲で関わった「願いごとの持ち腐れ」(2017年)は、自分の中にはない曲調でしたね。

【MV full】 翼はいらない / AKB48[公式]

ーー「願いごとの持ち腐れ」は、3拍子の合唱曲。確かにアイドルソングとしては異例ですよね。その他にも欅坂46、ラストアイドル、倉木麻衣さん、伊藤蘭さんなど女性アーティストとの仕事が多いのかなと。

若田部:男性アーティストにどういう曲を作れば、ファンのみなさんに喜んでもらえるのかわからないというか。女性アーティストのほうがイメージしやすいし、自分が聴きたい音楽を作れば、みたいなところもあって。

ーーなるほど。福田さんはクリス・ハートさんの初のオリジナル曲「I LOVE YOU」の編曲も手がけられています。

福田:初めてレコーディングでピアノを弾いた曲なんですよ。デモ音源の時点ですごくいい曲だったし、ピアノと歌を中心にして、シンプルなアレンジになってますね。すごくいい曲になったし、たくさんの方に聴いてもらえました。

ーーさらにSixTONES「Fast Lane」、三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE「J.S.B. HAPPINESS」、GENERATIONS from EXILE TRIBE「UNITED JOURNEY」など男性グループの楽曲も。アーティストのスタイルに合わせて、かなり作風を変化させている印象もあります。

福田:その3曲は共作なので、一緒に制作した方のアイデアも大きいですね。確かにいろいろなアーティストの楽曲に関わらせてもらってますが、いつも心がけているのは楽しんで作ることなんです。照準を定めたり、狙って作ることも必要なんですが、自分が聴いて“いいな”と思える曲を目指すというか。“楽しむ”というのはコモリタミノルさんがインタビューで語られてたことなんですけどね(笑)。あれほどすごい方でも、そういうことを考えてるんだなと。

ーー“ヒットを狙う”という意識もないですか?

福田:そこまで意識してないですね。あと、今は何がヒットかもよくわからないし。

若田部:iTunesやストリーミングのチャートはあまり変化しないじゃないですか。

ーー1回ヒットすると、長期に渡って聴き続けられる傾向がありますね。

若田部:そうそう。チャートが機能していないというか、あまり意識しても仕方ないのかなと。特にコロナ禍になって、そういう傾向が強くなってると思います。

ーー音楽的なトレンドについてはどうですか?

福田:K-POPはよく聴いてますね。楽曲の骨組みもおもしろいし、サウンドも斬新なものが多くて。MVの演出や映像クオリティ、衣装のカッコ良さも含めて、素晴らしいなと。たとえばNCT127の「Sticker」もそう。民族的な音、ヒップホップなどが混ざっていて、発想が新しいんですよね。

若田部:僕もK-POPは聴きますけど、今のトレンドというより、最近は古いものをレコードで鳴らしたりしていて。YMOのレコードなどもそうなんですけど、新しい発見というより、「この音、やっぱり好きだな」という感じで聴いてます。

ーーなるほど。では、ヒット曲に必要な条件、ポイントがあるとしたら、どんなことだと思いますか?

福田:難しいですけど、社会情勢と関わりがあるんだろうなと思いますね。世の中の雰囲気とマッチすることで、より多くの人に聴かれるのかなと。

若田部:うん、それはあるよね。特にコロナ禍になって、人と人が触れ合うことが難しくなった。そもそもアイドルやアーティストの活動がこれだけ制限されるとは想定してなかったし……。でも、そういう時期だからこそ、生まれたヒット曲もあるじゃないですか。それはつまり、聴かれる楽曲の傾向が変わってきたということですよね。

福田:そこに合わせて曲を作るのは難しいですよね。この先、どうなるかわからないんだから。

若田部:そうだね。ヒットを出したアーティストはずっとチャンスを窺って、準備していたんだと思うし。当然、いいメロディと歌詞も必要だし、歌い手との相性もあって。プロモーターの意向もあるし、本当にいろいろな要素が組み合わさってますよね。

福田:若い人たちと、年齢を重ねた人たちが求めているのものも違うし。みんなで聴くというより、個々で好きなものを聴く傾向がさらに強まってるのかなと。

若田部:うん。しかも若い子たちのなかで「昭和のアイドルが好き」という人もいて。ムーブメントを作れるプロデューサーも少ないですからね、今は。

福田:そう考えると、やっぱり楽しんで作るしかないですね(笑)。

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