分島花音×千葉”naotyu-“直樹×大野真樹『AZNANA』鼎談 ゲームの世界観に寄り添った楽曲が完成するまで

『AZNANA』音楽にまつわる特別鼎談

 『ALTER EGO』などで知られるカラメルカラムの新作アドベンチャーゲーム『AZNANA』。この作品は“放置ゲー”のシステムを使い、言葉が話せない少年と、体はないが社交的で明るい生首の少女・アズナナが、壁に覆われた町の外へ出るために奮闘する物語を描いている。

 その不思議な世界観を音楽面でサポートしたのが、テーマソングを含む全曲の作詞作曲を担当したシンガーソングライターの分島花音と、アレンジを担当した千葉”naotyu-“直樹。チェロなどを筆頭に様々な楽器を使いつつ、エレクトロジャズ~エレクトロスウィングからの影響を閉じ込めた異国情緒たっぷりな音楽の制作過程を、カラメルカラムの代表で、本作のゲームプロデューサーを務めた大野真樹を加えた3人で語ってもらった。(杉山仁)

AZNANA Official Trailer

「色んな方々の日常に溶け込むような形で遊んでもらいたい」(大野)

ーーまずは大野さんにお聞きしたいのですが、『AZNANA』はどんなアイデアから生まれた作品だったのでしょうか?

大野真樹(以下、大野):『AZNANA』は、言葉を喋れない少年が、ゴミ山でアズナナという生首の女の子と出会い、一緒に閉鎖的な町から出ようとする物語を描いたゲームです。分島さんに音楽を頼むときにもお話したんですが、ゲームの舞台は自分の地元をイメージしていて、当時の僕は「こんな町、早く出たいな」と思いながら過ごしていました。まぁ、生首の女の子に出会ったことはないんですけどね(笑)。ただ、基本的な世界観は自分が子供のころ見ていた風景に、ファンタジックな要素を加えて膨らませていきました。

ーー大野さんの実体験がもとになっていたのですね。とはいえ、「今いる場所とは違う場所にいきたい」という思いや憧れは、多くの人が感じたことのある気持ちかもしれません。

大野:そうですよね。そう感じてくれる方がいたらいいなと思いながらつくっていました。

ーーそこに放置ゲーの要素を組み合わせたのはなぜだったんですか。

大野:カラメルカラムは自分がメインでシナリオやゲームデザインを担当して、3人程で制作をしている会社です。そのため、大規模なゲームをつくることはできませんが、ひとつのゲームで長く遊んでもらって収益を得るモデルにしています。そう考えたとき、放置ゲームは長く楽しんでもらえるものですし、スマホを閉じて他のことをしている間にも、主人公の少年とアズナナが一緒に冒険をしているように感じてもらえるだろうと思いました。色んな方々の日常に溶け込むような形で遊んでもらいたいと思っていたんです。

 たとえば、自分が電車でこの取材場所に来るまで30分ほどかかったんですが、それくらいの時間があればゲーム内でもひとつお店を移動できるので、そんなときにも「ちょっとやろうかな」と思ってもらえたらいいなと。

大野真樹
大野真樹

ーー店から店への移動時間は、プレイヤーの生活リズムも踏まえたものだったんですね。

大野:そうなんです。また、ゲームの世界観については、閉鎖的な土地という意味で壁で覆われた町のイメージが出てきたんですが、それに加えて『フリクリ』のような“ボーイミーツガール”がやりたいという気持ちも持っていました。あの物語も、真ん中に巨大プラントがある閉鎖的な町にベスパに乗った女の子がやってきて、少年が振り回されながらも頑張っていく、というちょっと強引なボーイミーツガールで。その中で「閉鎖的な状況を崩していこう」という部分が、『AZNANA』でやりたかったことと似ていたんです。

 『AZNANA』の少年は、言葉を喋ることができなくて、「このままでいいのかな」と考えていました。そんな彼が、自分とはまったく性格の違う、頭だけだけれども明るくて社交的な少女・アズナナと出会います。そして、最終的には自分の意志で「外に出たい」と思うようになっていくーーそういう物語を描きたいと思っていました。

「いい意味で『何だこれは!?』という驚きを感じました」(千葉)

ーー音楽を分島さんと千葉さんにお願いした経緯も教えてください。

大野:実は僕は、2018年に分島さんのZepp DiverCity(TOKYO)でのライブに行っていて。

分島花音(以下、分島):わぁ、そうだったんですか!?

大野:はい。オファーの際には言えなかったんですが、そのライブがすごくよかったんです。その日分島さんは、MCで「私、全然大丈夫じゃないんです」と言っていて。その頃、僕はどんなゲームをつくろうかと色々と悩んでいたこともあり、そのMCがすごく印象に残りました。また、『AZNANA』のビジュアル的にも夕焼け色~暖色系が中心で、空き缶が転がってきたりスチームパンクっぽい雰囲気があったりするという独特の世界観に、分島さんの音楽がすごく合うだろうなと。それでDMを送らせていただきました。

分島:私は当時ワーキングホリデーを利用してイギリスに行っていて、ミュージシャンとしてはフリーランスでした。ただ、作家としてはSMP(ソニー・ミュージックパブリッシング)に所属していたので、基本的にSMP経由でお仕事をいただいていたんです。そこに突然、自分宛てに直接DMが届いたので、最初は何かの間違いかと思いました(笑)。

大野:(笑)。僕としては『AZNANA』の音楽は分島さんにぜひお願いしたいと思ったものの、当時は窓口が分からなかったので、とにかく送付可能なフォームに依頼状をお送りしたんです。分島さんがダメならいちから考えなければいけない……と思っていたので。

分島花音
分島花音

ーーそこで分島さんともよく仕事をされている千葉さんとも繋がって、お2人が『AZNANA』の物語に初めて触れることになるんですね。

分島:最初に企画書をいただいたときに、生首の女の子や、顔がお花の少女のようなキャラクターが載っていて、「どんなお話なんだろう?」と興味をそそられるような感覚でした。

千葉”naotyu-“直樹(以下、千葉):いい意味で「何だこれは!?」という驚きを感じましたよね。

分島:今までにない雰囲気の作品だな、と思いました。でも、お話を聞くと大野さんの実体験から作品がつくられていて、灰色っぽい経験や思い出もゲーム作品に反映させて昇華させているところに魅力を感じました。それで、音楽をつくるために、作品のことをもっと知りたいとお話ししました。

ーー具体的な楽曲制作はどんなふうに進めていったんでしょう?

大野:僕は作曲いただく方に、作品で表現してほしいことが伝わるようなポエムを送ることがあるんですが、「前の作品でポエムを送ったんですよ」という話をしたところ、お2人とも「ぜひ送ってください」と言ってくれて。そこで、音楽的な話はひとつも書かれていないんですけれども、作品のエモーショナルな部分を伝えられるものを送りました。そこに、僕の家出の話も書いたのですが、分島さんはすごく興味を持ってくださっていましたね。

ーー家出の話ですか?

大野:先ほどの地元の話に繋がるのですが、当時の僕は家族との折り合いも悪くて、「この町をさっさと出るしかない」と思っていて。そして実際に、家出をして今に至るんです。

ーーそうだったんですか……!

分島:すごい話ですよね。そしてそこから、私は完全にハッピーなわけではない、ちょっと悲しさやノスタルジックな雰囲気が感じられるような音楽を考えていきました。千葉さんにも本当にアレンジをこだわっていただいて。

千葉:いえいえ。シンガーさんに楽曲提供をするときも、時間がある場合はなるべくその方のバックグラウンドをうかがった方がいいものができると思っているので、事前に大野さんのバックグラウンドも含めた作品についての話をうかがえたことはすごくよかったですね。

千葉"naotyu-"直樹
千葉”naotyu-“直樹

「自分がチャレンジしたかった音楽ができるかもしれないと感じた」(分島)

ーーでは、メインテーマの「Goodbye to Boredom」の制作過程について教えてください。

分島:「Goodbye to Boredom」に関しては、まず「英語の楽曲にしてほしい」というオーダーがありました。当時の私は国にとらわれない色々な音楽を取り入れたいと思って、英語の歌詞も率先して書いていました。なので、「自分がチャレンジしたかった音楽ができるかもしれない」と感じていましたね。イギリスに行く前の私は「これからどういう方向に進んでいこう」と鬱々と悩んでいたんですけど、この曲をつくったのはイギリスから帰ってきた直後ぐらいで。自分が経験した、異国の地で右も左も分からないような感覚や、でもその中で「自分の意志で進みたい方向にいくしかない」という気持ちにリンクする歌詞にしたいと考えていました。そんなふうに、最終的には前向きに進んでいくような曲だと作品にも合うんじゃないかなと。

千葉:アレンジに関しては、具体的にイメージしていた国や地域があるわけではないんですが、ちょっとくすんだ色の、ローファイな世界観が似合うようなものにしたいなと思って、フルートやアコーディオンのような楽器で異国感を入れていきました。

大野:分島さんのデモの段階で「めちゃくちゃいいな。このまま使えるんじゃないか」と思っていましたね。でも、千葉さんのアレンジが加わると、さらによくなった印象で。そのときはゲーム画面をまだつくっていなかったんですが、アートワークの部分はできはじめていて、そのアートワークの「色」を、音で表現していただいたように感じました。

ーーイメージにぴったりだったんですね。

大野:歌詞に出てくる「Goodbye to Boredom」という言葉がいいなと思って、実はゲーム内にもちらっと入れているんです。クリアした後の回想画面で、「鈍色にさよなら」という意訳の形で引用させていただきました。

ーーボーカルレコーディングについてはどんなふうに進めたんでしょうか?

分島:隣にアズナナがいなかったら、自分の未来は変わっていたかもしれないという「ひとりじゃない」ことについて歌っている楽曲なので、あくまでも囁くように、近くの人に歌っている印象の歌声にしたくて。力強さよりも寄り添う雰囲気が出たらいいな、と思って歌いました。アズナナは少年が常に抱えていないと移動ができないですし、少年はアズナナがいないと誰とも喋ることができません。その常に一緒にいる雰囲気を表現したかったのと、少年は喋ることができないので、心の声のようなものをイメージして、あまり大きく声を張ったものにはしたくないと思っていたんです。

大野:歌詞も明るいだけではなくて、コーラス部分でもちょっと悩んだりしている部分を表現してくださっていて、とてもいい曲にしてくれました。

分島:歌詞については自分のニュアンスでつくった直訳ではない日本語訳もあるので、発表できるところがあるなら、いつかみんなに見ていただいて作品の世界観を伝えるような機会もつくれたらいいですね。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる