sora tob sakanaの解散を惜しむーーアイドルとしての特異性、メンバーに寄り添い進化を続けたクリエイティブ

メンバーの成長に合わせて進化を続けたクリエイティブ

 オサカナと並行して、音楽プロデューサーの照井自身も仕事の幅を広げていった。自身のバンド活動だけでなく、私立恵比寿中学、YURiKA(テレビアニメ『宝石の国』の主題歌として)、鈴木みのりなどに楽曲を提供。さらに今年10月から放送開始される、『週刊少年ジャンプ』の人気連載作品「呪術廻戦」のテレビアニメの劇伴への参加も発表されている。

 楽曲が高い評価を受け、2018年には東京国際フォーラムホールCでのワンマンライブも成功させたオサカナ。結成時は13歳だった、現在最年長の寺口夏花も、来月で20歳になる。楽曲においても、メンバーの成長(加齢という意味だけでなく、精神的、パフォーマンスという面においても)とともに、ジュブナイルというテーマだけにこだわることなく、初恋について、あるいは思春期の少し先から見た世界について歌ったりと、等身大の姿に寄り添う形でアップデートを繰り返して来た。照井は解散発表に際し、以下のようなメッセージを残している。

「出会った頃の彼女達は、幼い頃から芸能界で活動しているとは思えないほど(していたからなのかもしれませんが)大人に媚びることはせず、安易に触れることを許さない聖域の様な精神の場所を持っているように感じました。

芸能界、アイドルといったものに全く関心がなかった僕がここまで真剣に取り組んでこられたのは、そんな彼女達の気高さへの憧れ、それに少しでも近づきたいという気持ちがあったからだと思います。

長い活動の中で他者への想像力を培った彼女達が、誰にも触れさせなかった聖域をしなやかに解放していく様を感動しながら、少し寂しいような、少し自慢したいような気持ちで見ています」

sora tob sakana オフィシャルサイトより

 スタッフやクリエイターの単なる押し付けでなく、時間経過にともなうメンバーの変化を見逃さず、それを取り入れた上で進化を続けて来たオサカナ。アイドルとして唯一無二の世界観と、アイドルの中でも突出して高いクオリティのコンテンツを作り続けて来たこのグループが、解散してしまうのは実に惜しい。20代を迎えるメンバーがどのような楽曲を歌い、パフォーマンスするのか、その未来を見たかったと思う。

Lighthouse / sora tob sakana band set(2020.02.08 主催ライブ『天体の音楽会 Vol.3』)

 解散までわずか残り2カ月。8月5日には、ベストアルバム的な内容ながら新曲2曲が収録されるラストアルバム『deep blue』が発売される。また、福岡、大阪、名古屋、東京を巡るラストワンマンライブツアーがすでに始まっている。コロナ禍の続く中でありながら、歩みを止めず進み続けるオサカナの姿を、最後まで見届けたい。

■岡島紳士(おかじま・しんし)(@ok_jm
1980年生まれ。アイドル専門ライター。著書、共著に「グループアイドル進化論」、「AKB48最強考察」、「アイドル10年史」「アイドル楽曲ディスクガイド」など。埼玉県主催「メディア/アイドルミュージアム」のメインアドバイザー。「アイドル楽曲大賞」コメンテーター。「バイキング」「スッキリ」「5時に夢中!」などに出演。ガールズカルチャーメディア「VIDEOTHINK」を主宰。E TICKET PRODUCTIONによる、吉田凜音「りんねラップ」を生んだ「E TICKET RAP SHOW」シリーズを制作。
オフィシャルサイト

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