RYUSENKEI、体制変更で新たな音楽の地平へ 「2024年にシティポップ的な言葉を連ねても意味はない」
クニモンド瀧口の率いるプロジェクト 流線形が、劇的なリニューアルを果たす。ユニット名の表記をアルファベットのRYUSENKEIに改め、パーマネントな正式メンバーにシンガーソングライターのSincereを招き、創立55周年を数える伝説的レーベルであるアルファミュージックの再始動に伴い、その第一弾アーティストとして新作『イリュージョン』をリリースする。
今世紀初頭から胎動を始めたシティポップリバイバルを牽引してきたRYUSENKEIは、世界的な規模にまで広まったその空前のブームに対し、いかなる返答をしたのだろうか。(下井草 秀)
今後のRYUSENKEIは、もう少し違う場所に行ってみたかった(瀧口)
――長年親しまれてきた漢字表記からアルファベット表記へと切り替えた理由は?
クニモンド瀧口(以下、瀧口):シティポップの全世界的ブームもあって、RYUSENKEIのYouTubeやSpotifyへのアクセス数は、国内よりもむしろ海外からの方がずっと多いんですよ。これを機に、言語を超えても通用する表記にしたいと思って。
――2001年の活動開始以来、ずっと固定したボーカリストを置いていなかった流線形が、今になって正式メンバーを迎えたことに、驚きを覚えました。『CITY MUSIC』(2003年)ではサノトモミさん、『TOKYO SNIPER』(2006年)では江口ニカさん(その正体は一十三十一)、『ナチュラル・ウーマン』(2009年)では比屋定篤子さん、『インコンプリート』(2022年)では堀込泰行さんと、これまでのシンガーはすべてフィーチャリングという名義、つまりはゲストの体裁でしたよね。
瀧口:ええ。でも、その活動形態には、ちょっと限界を感じていたんです。やっぱり、正式なボーカリストが不在だと、ライブにせよ何にせよ、簡単には動きづらい。それに加え、今後のインターナショナルな展開を見据えると、ネイティヴとして英語がしゃべれて、英語で歌えるシンガーがメンバーとなるのが理想的だなと。さらに言えば、若い血も入れたかった(笑)。
――そこで、抜擢を受けたのが、シンガーソングライターとして約2年半のキャリアを有するSincereさん。すでに、ソロとしてメジャーレーベルのポニーキャニオンとも契約を果たしています。瀧口さんからは、どんな風に声がかかったんですか。
Sincere:失礼な話なんですけど、クニモンドさんからInstagramでダイレクトメッセージをもらったことに、しばらく気づかなかったんですよ(笑)。発見後、慌てて返事をしました。
瀧口:しばらく放置されてたよね(笑)。ここだけの話、スケジュールの都合上、あと1週間ぐらい返事がなかったら、彼女はRYUSENKEIに加入していなかった。
Sincere:私はクニモンドさんからご連絡を頂くまで実は流線形という名前もあまり存じ上げておらず、参加のオファーをきっかけにじっくり調べ、聴いてみて、その魅力を理解しました。ソロとしての私が作っている音楽とは、結構方向性が異なりますが、その分、かなり新鮮に感じました。レコーディングの現場でも、新しい発見が多かったですね。
――Sincereさんが歌うRYUSENKEIの楽曲を聴いて、瀧口さんはどう感じました?
瀧口:これまでの流線形がフィーチャーしてきたゲストは、声に特徴を持つシンガーが多かった。もちろん、それはそれとして、リスナーに対して楽曲を印象付けるという意味ではよいことだったんですが、今後のRYUSENKEIは、もう少し違う場所に行ってみたかった。Sincereの声は、不思議な匿名性を併せ持っているから、歌の本来の魅力をナチュラルに伝えてくれる。新しいボーカリストとして、ドンピシャのチョイスだったと思います。
――この新体制を始動するに当たり、モデルとしたアーティストや作品はありますか。
瀧口:チャールズ・ステップニーがプロデュースしたミニー・リパートンのアルバム『カム・トゥ・マイ・ガーデン』が理想形。あの2人の関係性は、このアルバムにいろんなヒントを与えてくれました。それから、マリーナ・ショウの『Who Is This Bitch, Anyway?』。去年、「Feel Like Makin' Love」を収めたあの稀代の名盤のことをなぜか急に思い出し、一時期はヘビーローテーションで聴いていたんですが、年が明けたら逝去のニュースが入った。まさに虫の知らせだったんでしょうね。
――漢字の流線形だった時代は、ほぼレギュラーに近いサポートメンバーと一緒にセッションを重ねてアレンジを整えていく形が取られていました。新作では、これまでにない数のミュージシャンを招いてレコーディングが行われていますね。
瀧口:以前は、モチーフだけを携えてスタジオに赴き、メンバーにアレンジを委ねつつ進めていくパターンが多かった。今回に関しては、ベーシックなシーケンスを僕が作った上で、打ち込んだその音を生楽器に差し替えていくというプロセスを踏みました。
――その結果、クレジットを見ても、従来のディスコグラフィーに比して、瀧口さん自身がプレイを披露する割合はグッと小さくなりました。
瀧口:今回、僕は、プレイヤーという立場にはあまり重きを置いていないんですよ。むしろ、アレンジャーであり、プロデューサーであるという気構えがいつも以上に大きかった。そもそも僕、フロントマンとして前に立てるタイプじゃないと思ってるんで(笑)。
――この録音には、錚々たる著名アーティストたちとの仕事でも活躍する、気鋭のミュージシャンが集っています。
瀧口:とにかく、みなさん、こちらの想像を易々と超えるプレイを披露してくれて、素晴らしい作品が出来上がりました。ベースのまきやまはる菜さんやパーカッションの山下あすかさんは、まだ20代の若さだというのに、めちゃめちゃ巧かった。現在、KIRINJIではギターを弾いているシンリズム君も、現在で27歳かな。彼には、ストリングスアレンジをお願いしました。今の若いミュージシャンは、すごい才能の宝庫ですね。僕らの世代を思わずハッとさせる、新しい音楽的な引き出しを持っている。
――瀧口さんとSincereさんにもまた、親子ほどの年の差がある。ジェネレーションギャップがあったとして、それを埋める具体的な手段は、何かありましたか。
瀧口:実は僕、Sincereのお父さんより年上なんですよ(笑)。このアルバムでは、Sincereが2曲の作詞をネイティヴならではの英語で行っています。それらの楽曲の世界観を伝えるために、僕は、かつて愛読していた少女漫画を渡したんです。
Sincere:「月のパルス」の詞を書くに当たっては、くらもちふさこさんの同名作品をリファレンスとして貸してもらいました。どの登場人物の視点に立てばいいのか、迷いながらも歌詞を完成させましたね。