ベストアルバム『Fiction』インタビュー
Maison book girl、初のベスト盤『Fiction』を機に辿る歩み「良いと思うものを作り続けていれば好きな人の心に刺さると信じて」
Maison book girl、通称ブクガが、2014年の結成以来初めてのベスト盤『Fiction』をリリースする。再録された一部の楽曲のほか、新曲の「Fiction」、ポエトリーリーディングの新曲「non Fiction」を含む全18トラック。2020年の初夏に聴く『Fiction』は、どこかアフターコロナの世界と共鳴するものがある。それは「僕」「私」と「君」との距離が離れてしまう事態が現在進行形で起きているからだ。ブクガの矢川葵、井上唯、和田輪、コショージメグミは、ブクガの過去と現在にどう向き合っているのか。緊急事態宣言解除後、久しぶりに人と話したという彼女たちに話を聞いた。(宗像明将)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】
パフォーマンス面での成長を重ねた年月
ーーブクガは、変拍子や現代音楽の要素、内面を描く世界観については多く語られてきたと思うんです。メンバーから見て、まだあまり語られていないと感じる部分はあるでしょうか?
コショージ:やっぱりライブですね。舞台制作にも力を入れて面白いことをやっているので、たくさんの人に見に来てほしいと思っています。
矢川:具体的な言葉では説明できない演出などをしていて。たとえばいろんな映像を使って音に合わせたり、曲じゃないところでも私たちが動きをつけていたり。ライブに来ていない人にはそういう部分はあまり伝わっていないかもしれない。
和田:AmazonさんやYouTubeさん、いろいろなところでライブ映像を見られるようにしてもらっているんですけど、ブクガのライブって、そこにいないとわからない空気感みたいなものがあるんです。だからこそ映像を見て気になった方にはやはりライブに来ていただきたいという思いがありますね。
ーーブクガは当初、プロデューサーのサクライケンタさんの内面の投影だった部分もあったと思います。その表現の仕方に変化はありましたか?
和田:歌う曲の難易度はちょっとずつ上がっていて。それはきっとサクライさんが私たちのライブでのパフォーマンスを見て「次はこれくらいはいけるかな?」と都度判断しているのかなと思っています。
ーーサクライさんに対して、「こういう曲を歌いたい」と伝えることはあるんですか?
コショージ:たまにありますね。ふざけて言ったことはもちろん却下されますけど、本気で言ったことは要素として取り入れてくれたりします。「どういうのがいい?」と直接聞かれたりすることもあります。
矢川:歌い方やライブでの見せ方はメンバーに委ねられています。レコーディングのときも、サクライさんから「いつもの癖のある感じで歌ってほしい」という注文があったりして。そういう部分では私たちも作品づくりに参加していると感じますね。
ーー具体的に「こう歌ってほしい」というオーダーはないんですか?
矢川:「広い感じで」とか「もっと上の感じで」とか、抽象的な指示が多いです。その言葉のイメージを自分たちで想像しながら歌に反映しています。
ーーブクガのアイドルシーンでの立ち位置が変わったと感じる部分はありますか?
和田:最初の頃は「アイドルを見に来たお客さんに届けるには、どうしたらいいんだろう?」と悩んだときもあったんですけど、最近は「すべきことをやっていればいい」と思えるようになりました。アイドルが好きで、かつ他の音楽も好きという方々に刺さればいい。ただ自分が良いと思うものを作り続けていれば、好きな人の心に刺さると信じて活動しています。
コショージ:自分自身はそのアイドルシーンの渦の中にいるからよくわからないんですよ。でも、5年活動していると一緒のイベントに出ていたような人たちが、気づいたら違うステージに進んでいたりすることもあって。
ーー自分たちがどう、というわけでは特にない?
コショージ:そうですね。最初の頃と今とで違うところは、ブクガはフェスや対バンの出演よりも、ツアーやワンマンをするようになっているところなので、「よく会っていた人たちと会わなくなったな」と思うことはあります。
矢川:もともとsora tob sakanaさんとか、ヤなことそっとミュートさんとか、私たちと近いタイミングでデビューして、同じように「楽曲派」と言われるようなかっこいい曲を披露しているアイドルさんがまわりにいたので、アイドルシーンの中で私たちだけポツンとしていたとは思っていなかったですね。それぞれのグループの色を突き詰めていった結果、私たちは今、ワンマンライブにも力を入れるようになったのかな。
ーーsora tob sakanaは解散が決まりましたね。
井上:同じ頃のデビューとか関係なく好きだったので……ショックです。
ーー井上さん自身は変化を感じますか?
井上:5年やってきたってだけあって、アイドル好きな人にも名前が知られるぐらいにはなっているかな? とは思います。
ブクガと関わる人すべてが大切にする“1対1”の関係性
ーー今回のベスト盤には「my cut」は収録されていませんが、2020年4月に公開された「my cut -Parallel ver.-」のMVのように全力でアイドルらしいアイドルをしていたとしたら、できていたと思いますか?
コショージ:たぶんできなくはなかったと思います。ただ5年続いてるかはわからないけど……。でもやれていたとは思います。
矢川:最初はああいうアイドルらしいアイドルに憧れていたけど……(笑)。もうすっかりブクガに染まって、素の自分がこっちに変わったというか。あの撮影のときも上手に笑えなかったので(笑)。
和田:表情筋が鍛えられてないから(笑)。
ーーやっていたらできていたかもしれない?
矢川:(小声で)かもしれない。
和田:私は、ブクガの前にアキバで働いたりしていたので、もともとそういう要素も好きではあって。今となっては「ブクガのほうが向いてるかな」とは思うんですけど。
コショージ:一番ノってたよね。
和田:昔の血が騒いじゃった(笑)。
井上:私も、最初からそういうコンセプトだったらできていたのかもしれない。かわいいアイドルさんが好きだし。でも、自分がやるんだったら、ブクガみたいなもののほうが好きかな。
ーーブクガって、立ち位置的にも音楽的にも特異なところにいると思うんですよ。なぜずっとメジャーで続けていられるのか、考えることはありますか?
コショージ:それは本当にレーベルの方たちの愛だと思いますね。お客さんもそうですけど、人と人との関係性は1対100とかじゃなくてあくまで1対1だと思うんですよ。私たちを支えてくださっている人たちは、ひとりにものすごく刺さることを大切にしてくださっているんです。1000人いて1人でも「すごく好き」という人がいたら、それで成立させてもらえるというか。ブクガにはそういうパワーがあると思っています。
矢川:コショージが言ったように、前レーベルの担当の方も、今の担当の方も、好きだから応援しようという気持ちで「一緒にやりたい」と言ってくれているんです。
和田:ファンの方も、レーベルの方も、今好きだと言ってくれている人たちは、「ブクガを知れば刺さる層」が必ずいると信じてくれていると思うんですよね。自分がそうであるように。
ーー刺さるという感じは、たとえばコショージさんが好きな欅坂46のような感じですかね?
コショージ:うーん……。ちょっとそのイメージとは違うかもしれないですね。難しいですけど。何かに例えるとしたら何なんですかね……。食べ物とか?(笑)
井上:納豆?
矢川:パクチー。
コショージ:トムヤムクン。好きな人は好きみたいな。味覚が変わって、後から食べられるようになる人もいるし。
井上:妥当な例え。一番当てはまってる。
コショージ:あざす!