野木亜紀子が描く“私たちの物語”に浸れる喜び 『海に眠るダイヤモンド』の興味深い構造
日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)において、宮本信子が演じるいづみは一体何者だろう。
「私、キラキラしたの大好き」と第1話序盤でホストクラブの煌めきを見て言った彼女と、朝子(杉咲花)が第3話で端島を外側から眺め、口にした「キラキラ」は対極ではあるが、どこか重なるものがある。一方で、百合子(土屋太鳳)のネックレスの「キラキラ」とそれに触れる彼女の手が、現代パートで自身のネックレスに触れるいづみと重なる。いや、リナ(池田エライザ)も忘れてはならない。第1話で「人生変えたくないか? ここから、変えたくないか?」という鉄平(神木隆之介)がリナに対して言った言葉と同じ言葉を、いづみが玲央(神木隆之介・二役)に向けて言っているのだから。
第3話終盤にいづみが鉄平に語る「山桜」のエピソードは進平(斎藤工)とリナの百人一首を巡る会話を思わせるが、一方で、桜の木を前にした朝子の秘めた思いの吐露が、現代のいづみと玲央の「山桜」を巡る対話と重なることで、いづみと朝子が重なって見える。そうやって、「いづみ」の正体を巡って様々な考察をせずにはいられなくなるのが私たち視聴者なのであるが、第1話終盤でいづみが玲央に「コードネームいづみ」と冗談を言って笑うように、ある意味彼女はその時代、端島という島を懸命に生きた女性たちすべてに当てはまる存在なのかもしれないとも思う。
もちろん「種明かし」は終盤されるのだろうが、今はただ、野木亜紀子が描く、重なり合う「私たち」の物語に浸っていよう。高度経済成長期の長崎県端島と現代の東京を繋ぐ壮大な物語の中に、しっかりと、その時代を懸命に生きた人々の思いが息づいている。何よりそこに「あんたが私をわからなくても、私があんたをわかってやれなくてもそれは仕方がない。誰の心にも山桜があるんだ」という、孤独を知る人の凛とした言葉がある。それだけで本作は何より信頼に足る作品なのだから。
野木亜紀子がこれまで手掛けてきた作品の魅力は一言では言い表せない。例えば『アンナチュラル』(TBS系)や『MIU404』(TBS系)といった社会派エンターテインメント作品や、『重版出来!』(TBS系/松田奈緒子原作)といったお仕事ドラマ。『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系/海野つなみ原作)で変わりゆく家族の在り方を模索し、『獣になれない私たち』(日本テレビ系)では現代の女性たちの生きづらさを掘り下げた。沖縄が抱えている様々な問題と真摯に向き合った『連続ドラマW フェンス』(WOWOW)は、視聴者が見て見ぬふりをしている現実を真っ直ぐに突きつけた。