『虎に翼』戸塚純貴が透明化された人々の代弁者に 朝ドラで“セクシュアリティ”を扱う意義

朝ドラで“セクシュアリティ”を扱う意義

 放送中の朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)は、愛すべき登場人物たちで溢れている。物語の進行によって状況が変わっても、いつだってヒロイン・寅子(伊藤沙莉)が魅力的なのだから、彼女の周りに集まってくる者たちもまた魅力的で当然なのかもしれない。

 しかし中には、寅子的にも視聴者である私たち的にも、ファーストインプレッションがあまり良くなかった者たちがいる。もちろん、やがてその印象はポジティブなものへと変わっていくわけだが。

 その最たる存在といえば、轟太一なのではないだろうか。演じているのは戸塚純貴である。

 本作に轟がはじめて登場したのは、第4週「屈み女に反り男?」でのこと。弁護士を目指していた寅子が明律大学の法学部に進み、そこで彼と出会った。当時の法曹の世界は完全に男社会。寅子は女子部の同志たちと連帯し、意を決しての進学だった。「男女平等」を謳う花岡悟(岩田剛典)に対し、轟は露骨な男尊女卑に固執する男。時代が時代とはいえ、現代の価値観からすれば完全に敵視すべき人物だったのである。

 けれども、彼に対するそんな印象はすぐさまひっくり返った。轟は「男は男らしく、女は女らしく」という考えの粗野なキャラクターだったが、これは彼自身が持つある種のピュアさからくるものだというのがすぐに判明したのだ。作劇上のキャラクター設定によるものでもあるが、やはり演じる戸塚の功績は大きい。彼はリアリスティックな演技ではなく、轟のキャラクター性により重きを置いた、快活でダイナミックな演技に徹してピュアさを体現していたのだ。

 やがて戸塚純貴と轟太一は化学反応を起こし、曲がったことが大嫌いな、噂やイメージなどに左右されない真っ直ぐで愛すべきキャラクターを、この『虎に翼』の世界に誕生させたのである。彼のこのような性格は、周囲の人々との関係性や時代が変わっていくにつれて変化していった。轟の好感度は回を重ねるごとに右肩上がり。その言動が物語の舵切りとして機能することも多く、私たちの実社会では「俺たちの轟」なる言葉さえ生まれたほどだ。

 “戸塚純貴=轟太一”が登場すると、ワクワクせずにはいられない。これは私だけではないだろう。轟の成長に合わせて、戸塚の演技はしだいにリアリスティックなものに。終戦後は山田よね(土居志央梨)とともに法律事務所を開き、激動の時代に翻弄される者たちに親身になって寄り添ってきた。そのメンタリティが、戸塚の演技の質感の変化に反映されていると感じたものだ。そしてやはり彼は優れたプレイヤーだと、強く再認識したものだった。

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