岩田剛典、戸塚純貴、高橋努 『虎に翼』で“喜劇俳優”が演じる男たちのカッコよさ

『虎に翼』で“喜劇俳優”が演じる男たち

 早くも「朝ドラ最高傑作」との声も上がっているNHK連続テレビ小説『虎に翼』。主人公・寅子(伊藤沙莉)が日本初の女性弁護士となり、結婚し、そしたら戦争が始まり、戦争が終わり、夫が戦病死した。これだけの濃密な物語を描いておきながら、まだ放送開始から2カ月しか経っていないのだ。なんなら、やっとこれからが本番ですよ、今まで観せていたものはただのプロローグですよ、この段階でそんなに情緒を乱していたらこの先ついて来れませんよ、とでも言うような、そんな脚本・吉田恵里香の余裕の笑みまで想像してしまう。

 寅子のモデルとなるのは、日本初の女性弁護士、女性判事、及び女性裁判所長となった三淵嘉子氏である。まだまだ男尊女卑の思想が強かった時代に風穴を空けた女性たちを描いているため、寅子はもちろん、彼女を取り巻く女性たちも、みな強くカッコいい。時代の波や家庭環境や抗えない運命に翻弄され、涙を飲んだ女性たちもいるが、みな信念があった。

 では、カッコいい男たちはいないのか。

 いる。寅子の明律大学法学部の同級生・花岡悟(岩田剛典)と轟太一(戸塚純貴)、そして新聞記者の竹中次郎(高橋努)だ。

 彼らはみな、第一印象は悪かった。花岡は、同級生の寅子たちに敬意を払うかのように見せながら、裏では女性を見下す発言をしていた。轟は、初対面時から寅子たちに女性蔑視発言を投げつけた。竹中は、寅子の写真を使って、女性が法律家を目指すことに否定的な記事を書いた。

 だが彼らは、寅子たちと接するうちに変わっていく。いや、「本来の彼ら」になっていく。

 男同士の会話の際の花岡の女性蔑視発言は、おそらく彼の本心ではない。覚えのある男性は多いと思うが、10代後半から20代前半におけるホモソーシャル内での会話は、いかに自分が女性にモテ、女性と遊び、しかもいかに女性をぞんざいに扱っているか。そのような会話でマウントを取り合うことがある。その時期を過ぎれば、そんなことで競い合っていたことのくだらなさに気付く。だがその時期は、少々話を「盛って」でも、周囲より優位に立とうとする。

 轟だけは、そもそもそんなことで「男の価値」が決まるとは思っていないので、花岡に発言の撤回を迫る。

 そして轟は、同郷の花岡の「本来の顔」を知っている。だから、花岡が寅子に怪我を負わされ(自業自得)、彼女を訴えようとした際、花岡を思い切りビンタする。力づくで、親友を間違った道から連れ戻す。

「愚か者!! 思ってもないことをのたまうな!! ここには俺しかいない。虚勢を張ってどうする!!」

 直情径行な轟は、基本的に手が早い。そのこと自体は、決して肯定できることではない。だが、その花岡へのビンタだけではなく、彼の暴力には意味がある。寅子の父・直言(岡部たかし)が共亜事件の容疑をかけられ、寅子が大学に来られなくなった際、心ない同級生がその件を揶揄して笑った。

 同じく手の早いよね(土居志央梨)が立ち上がった時、轟はいち早く彼らを殴り、頭突きまでかました。轟は、寅子の名誉だけではなく、よねのことも守ったのだろう。そして轟に「連れ戻された」花岡は、穂高先生(小林薫)まで巻き込んで、直言の容疑を晴らすために動き出す。

 共亜事件は日本の政財界を揺るがす大きな出来事であるため、新聞記者・竹中の出番が増えた。

 彼は、コワモテかつ常に憎まれ口を叩くが、実は寅子たちを常に気にかけている。だから、事件に首を突っ込み過ぎて暴漢に襲われた寅子と花岡の下に、あまりにもいいタイミングで現れ、助けるのだ。

 その際の、パンチを捌いてからの払い腰が見事だった。「ケンカに明け暮れた、柔道部出身の不良学生。でも弱い者の味方」。そんな前日譚まで想像してしまった。

 直言の無罪が確定した時、めちゃくちゃ嬉しそうだったのも竹中。寅子らの合格祝賀会での寅子の本音演説を、唯一好意的な記事にしたのも竹中だ。おそらく竹中は、寅子大好きである。素直になればいいのに。タイプは違えど、3人とも本当に“いい男たち”だ。

 ところで、この3人を演じた、岩田剛典、戸塚純貴、高橋努には、共通点がある。

 それは、3人とも、作品が変われば「死ぬほど振り切った喜劇役者でもある」ということだ。

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