ミニオンを生み出したイルミネーションが大躍進 映画『スーパーマリオ』にも高まる期待
公開された3作品がすべてアニー賞の長編作品賞にノミネートされた、イルミネーション/ユニバーサル・ピクチャーズ製作の『怪盗グルー』シリーズ。2007年の創業ながらも長い歴史を誇るディズニーや、『トイ・ストーリー』シリーズのピクサー、『シュレック』シリーズのドリームワークスといった有名スタジオに並ぶアニメーションスタジオとなっている。その特徴はキャラクター造形の巧みさであり、絶妙な動きや奥深い作品世界を表現するアニメ作りの素晴らしさだ。
2月17日に日本テレビ系『金曜ロードショー』で放送となった『怪盗グルーの月泥棒』(2010年)、そして2月24日放送の『怪盗グルーのミニオン危機一発』(2013年)は、『怪盗グルー』シリーズの1作目と2作目で、これに3作目の『怪盗グルーのミニオン大脱走』(2017年)が劇場公開されている。加えて、シリーズに登場する黄色くて小さいキャラクターのミニオンたちが活躍する『ミニオンズ』シリーズも長編や短編として作られていて、イルミネーションを象徴するキャラクターとして親しまれている。
このミニオンが、最初はオーバーオールを着た小柄な作業員としてデザインされていたことをご存じだろうか。2022年7月に日本版が刊行された『ミニオンたちの世界 エリック・ギロンによるイルミネーションアニメのキャラクター創造の秘密』(著:ベン・クロール、まえがき:クリス・メレダンドリ、訳:富永晶子)によれば、『怪盗グルーの月泥棒』を作るにあって主人公のグルーを助けるキャラクターが想定された。それがオーバーオールの作業員だった。
やがて姿はロボットに変わり、そこからグニャグニャとした謎の生物を経て黄色い円筒形のミニオンへと変わっていった。もしも途中のデザインのままだったら、ミニオンたちはここまで大人気のキャラクターにはならなかっただろう。それはグルーも同様だ。つるりとした頭に尖った鼻を持った顔がいかついボディの上に乗っている。ただし足は意外と細くて長いグルーのデザインが出来るまでにも、やはり紆余曲折があったようだ。
『ミニオンたちの世界』によれば、グルーは最初、吸血鬼のような恐ろしい顔をした細身の人物だった。それがスパイのようなハンサムな男になったこともあった。万人に受ける定石のように思えるが、グルーに求められたのはそうしたスマートでスタイリッシュな印象ではなく、むしろ“隙”があること。怖そうだがドジなところもあってつい応援したくなるようなキャラクターにすることで、観客の気持ちを上映時間中、スクリーンに引きつけられると考えた。結果、今のグルーの姿になった。
確かに『怪盗グルーの月泥棒』でグルーは、ピラミッドを盗むような後進たちを見返すために月を盗んでやると息巻いても、銀行からお金を貸してもらえない落ちぶれた印象のキャラクターになっている。孤児院で育てられていた3姉妹を引き取って、月泥棒に必要な装置を手に入れる道具として使おうとしながらも、面倒を見ずにはいられない心の温かさを持った人物として描かれている。だから気持ちを乗せられる。
こうしたキャラクター性を汲んでか、吹替版では落語家の笑福亭鶴瓶をグルーの声に起用する巧みなキャスティングが行われた。関西弁で息巻く姿は最初こそあまりマッチしているようには思えないが、見ているうちに本職の声優とは違った落語家として、あるいは司会者として培った人情味のようなものが声に滲んで聞こえてきて、グルーを頑張れと応援したくなるのだ。
『ミニオン危機一発』でもグルーは人情味を持った悪党という役回りをしっかりと見せてくれている。『月泥棒』で出会った3姉妹を引き取ることになり、悪党稼業からも足を洗ってゼリーとジャムを売って過ごしていたグルーに、超極秘組織の「反悪党同盟」から誘いがかかって、悪事を暴く仕事を始めることになる。ここで制作陣がテーマにしたのが、家族も出来て幸せを感じ始めたグルーに愛する気持ちを覚えさせること。「反悪党同盟」に参加したグルーは、ルーシー・ワイルドという女性エージェントといっしょに活動するうちに、彼女のことが気になって仕方がなくなってくる。