『大奥』に感じる時代劇の新たな可能性 堀田真由、仲里依紗らの眼差しの奥にある孤独

『大奥』に感じる時代劇の新たな可能性

 ドラマ10『大奥』(NHK総合)が映し出すのは、豪華絢爛、男女が逆転した虚構の大奥で艶めかしく繰り広げられる愛憎模様だ。だが、一際惹きつけられるのは、煌びやかな衣装を身に纏う、時の将軍・家光(堀田真由)、綱吉(仲里依紗)ら、彼女たちの眼差しの奥にある、孤独だったりする。

 本作は、時代劇の新たな可能性を感じさせるドラマである。これまでもドラマ化・映画化がなされてきた、よしながふみの大人気コミック『大奥』(白泉社)を原作に、森下佳子が脚本を手掛けた。よしながふみの原作の素晴らしさはもちろん語り尽くされてきたことであるが、そこに『おんな城主 直虎』(NHK総合)で「おんな城主」の物語を、『天国と地獄 〜サイコな2人〜』(TBS系)で入れ替わりものを、さらには『ファーストペンギン!』(日本テレビ系)で、現代日本の縮図のような男性中心社会で奮闘する女性の姿を丹念に描いた森下佳子の脚本が掛け合わされたのが興味深い。

 江戸幕府3代将軍・徳川家光の時代に「赤面疱瘡」と呼ばれる奇妙な病が日本中に広がり、結果として男性の人口が激減したとしたら、何が起こり得るのかという仮定を軸とし、男女が逆転した江戸パラレルワールドを描くという、あくまでフィクションの体をとってはいるが、しっかりと史実に沿った展開が為されていく。ある1つの時代、あるいは誰か1人の人物の人生に限定して描く大河ドラマ等の一般的な時代劇の構造とは異なり、徳川家光の時代から幕末・大政奉還に至るまでを1クールのテレビドラマで網羅しようとする斬新な試みは、視聴者に思わぬ気づきを与えてくれている。本作は、各章ごとに全く色合いの違う上質な恋愛ドラマを見せながら、簡単に「めでたしめでたし」では終われない、恋のその先の苦悩と葛藤も含めた“人生”の物語を描き、さらには、それらが絡まり縺れ合った末に形を為した“歴史”という大枠をも描こうとしている。だから、この物語の行き着く先が気になって仕方がない。

 2月5日に放送された特別番組『私の大奥語り』(NHK総合)において、森下佳子がよしながふみ作品の良さを「キャラクターに血肉が通っている」ことであると述べていたが、まさに本作の素晴らしさは、一見荒唐無稽なファンタジーであるように見せかけて、人間の本質的な部分が生々しく描かれていることにある。例えば、前述した、居丈高に振る舞う家光の目の奥にある「孤独」。それは絶えず不安げに揺れている。

 人は本来孤独な生き物である。どんなに言葉と身体を重ねたところで、人と人が本当に分かり合うことは容易でない。「上様」として生きる彼女たちはなおのこと。でも、何かの拍子で分かり合えたなら、これほど幸せなことはないだろう。有功(福士蒼汰)が家光の秘めた哀しみを理解し、「上様」という鎧の奥で震えている「千恵」という少女の心に触れた時、彼女は声をあげて泣き出し、2人は「2羽の傷つき凍えた雛が互いに身を寄せ合う」かのような恋をはじめたように。恋愛とは、本来、そんな互いの孤独を埋めようとする行為なのかもしれない。それが叶わない、受け入れられない苦しみもまた、「大奥」という特殊な空間ならではの描き方で描かれている。

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