『大奥』に感じる時代劇の新たな可能性 堀田真由、仲里依紗らの眼差しの奥にある孤独

『大奥』に感じる時代劇の新たな可能性

 特に際立っていたのが、第4話における、序盤の「一緒に死んでくれるか」「それより他の道がございましょうか」と言い合う家光と有功、蜜月の2人の姿と対比的に描かれる、終盤の、将軍として生きることを受け入れ、滅びかねない「この世」と心中しようという気概まで見せる、家光の変化である。かつて「人は(あなただけでなく)皆どうにもならん運命を抱えて生きている」と有功に諭されていた家光が、自身のその「どうにもならん運命」を受け入れた末に、有功ではなく「この世」と心中する覚悟を見せる。それは彼女の成長を示すと同時に、彼女が、彼の理解の範疇を超えてしまったことを示していた。まるで、猫の若紫が懐いたように有功に懐いた少女が、彼の手の中に到底納まることのできない「上様」へと成長し、飛び出していき、やがて「千恵」に戻って彼の腕の中で終わりを迎える物語。片や、彼女が変わっていくことを喜ばしく思いながらも、何もない自分に苦しみ、「いつ変わるとも知れぬものに縋って生きていくことが怖い」と思わずにはいられなかった彼は、確固たる自身の「役割」という「変わらないもの」に生きがいを見出し、自分と周りを変えていった。「分かり合う」という奇跡によって生まれた恋と、その後相手が変わっていくことへの葛藤を示したのが、「三代将軍家光・万里小路有功編」だったのではないか。

 そんな2人がボロボロになりながら築いた幕府と大奥の礎は、吉宗(冨永愛)の代になっても変わらずそこにあり続け、有功の背中の流水紋は、奇しくも水野(中島裕翔)へ引き継がれ、時代は移り変わっていく。有功の従順な弟分だった玉栄(奥智哉)は、綱吉の父・桂昌院(竜雷太)となり、見るからに強欲そうな老人として、時の流れの残酷さを体現する。それもまた、恋と人生と歴史の全てを、縺れ合って絡み合ってできた1つの大きな木の幹のようにひとつながりに描こうとしている本作の面白さである。

 さて、仲里依紗演じる綱吉の華やかさと山本耕史演じる右衛門佐の策士ぶりと、俳優たちの好演も相まって、雰囲気がガラリと変わった「五代将軍綱吉・右衛門佐編」。それぞれの物語の「読者」役でもある冨永愛演じる吉宗の佇まいも素晴らしく、この先どういった展開が為されるのか、楽しみである。

■放送情報
ドラマ10『大奥』
NHK総合にて、毎週火曜22:00~22:45放送
出演:福士蒼汰、堀田真由、斉藤由貴、仲里依紗、山本耕史、竜雷太、中島裕翔、冨永愛、風間俊介、貫地谷しほり、片岡愛之助ほか
原作:よしながふみ『大奥』
脚本:森下佳子
制作統括:藤並英樹
主題歌:幾田りら
音楽:KOHTA YAMAMOTO
プロデューサー:舩田遼介、松田恭典
演出:大原拓、田島彰洋、川野秀昭
写真提供=NHK
©よしながふみ/白泉社

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