『大奥』愛のために強くなる家光と弱くなる有功 斉藤由貴が春日局の奥行きを表現

『大奥』斉藤由貴が春日局の奥行きを表現

 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり……。かつて、『平家物語』の作者はその冒頭で春の夜の夢のごとき世のはかなさを嘆いた。あらゆる物事が生まれては消える運命を繰り返しながら、この世は絶えず変化していく。

 そんな虚しくもあり、希望でもある真実を、堀田真由、福士蒼汰、斉藤由貴らが登場人物たちの感情の機微を拾い上げる芝居に乗せて届けてくれた「3代・徳川家光×万里小路有功編」。NHKドラマ10『大奥』第4話は、その集大成となった。

 本来の人生を奪われ、深く傷ついた互いの心を寄り添い合うことで癒していく“家光”こと千恵(堀田真由)と有功(福士蒼汰)。しかし、その幸せは長くは続かず、ふたりの間に子が生まれないことを理由に、有功は春日局(斉藤由貴)からお褥すべりを宣告される。そして、千恵は春日局にあてがわれた新しい男たちと子作りに励まねばならなくなった。

 当然、順調に愛を育んでいたふたりの悲しみは大きく、特に有功にのみ心を委ねる千恵は激しく抵抗する。しかし、目的のためならば手段を選ばない春日局のこと。命令に従うほかないことは、彼らが一番よく知っていた。もしも他の男との間にも子ができなければ、ともに死を選ぶ……あまりにも悲しく、されど幸せな結末を願いながら千恵と有功は新たな道を進む。

 だが、その願いも虚しく、千恵と新たな夜伽の相手・捨蔵(濱尾ノリタカ)の間に姫君が誕生した。母となった千恵は、かつて自分が有功から向けられたような慈愛に満ちた表情で子を見つめる。有功にすがりつき、愛を求めた少女の姿はもうそこにない。彼女は愛を与える側になったのだ。守るべきものを手にした千恵は、国を治める者としての使命を全うしていく。

 3代将軍・家光が女性であることは世間に伏せられているため、状況に応じて衣装を替える千恵。さまざまな衣を纏うように、家光として、姫君の母として、自然と自分の顔も変えながら世と対峙していくことになるが、それができるのは“千恵”という何も纏っていない自分を受け入れてくれる存在=有功がいるからだ。しかし、千恵を愛する有功の心は嫉妬にかられ、刀で傷つけて回った部屋のようにズタズタに引き裂かれる。愛は人の心を弱くも強くもする。愛ゆえにどんどん強くなっていく千恵と、愛ゆえにどんどん弱くなっていく有功。そのすれ違いを堀田と福士の繊細な演技が際立たせ、切なくさせる。

 一方で、いろんな物事が変わっていくときにこそ、変わらぬものの美しさが本領を発揮するものだ。壊れそうな有功の心を支えたのは、仏の道を志したかつての自分自身だった。怪我で寝たきりとなり、さらに赤面疱瘡を患った捨蔵の看病をきっかけに、有功は自分の果たすべき役目に気づく。それは弱き者を助けること。ただ身体が弱った人の生活をサポートするのみならず、その者の心に触れ、救いを与えることだ。

 赤面疱瘡で男子の数がどんどん減っていくにもかかわらず、武家において女性が家督を継ぐことに反対する春日局。時代に取り残されていく彼女の心にも有功は最後まで寄り添った。春日局はいわば、有功にとって自分の人生を翻弄し続けた憎むべき相手だ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる