ディズニー好調の背景とは? ゼネラルマネージャーが語る2025年の展望と洋画興行の未来

ディズニー好調の要因をGMに聞く

 1月29日、日本映画製作者連盟が国内の年間興行収入を発表した。洋画の不振がささやかれるなか、屈指の成績を記録したのがディズニーだ。『ライオン・キング:ムファサ』と『デッドプール&ウルヴァリン』が実写映画の、『インサイド・ヘッド2』と『モアナと伝説の海2』がアニメーション映画の年間No.1、No.2をそれぞれ獲得した。

 全国のイオンシネマで特大オリジナルアートを公開するなど、日本独自の取り組みも積極的に行っているウォルト・ディズニー・ジャパン。2024年の振り返りと、多くの話題作が控える2025年の展望、そして洋画興行の現在・未来を、日本にてスタジオビジネスのゼネラルマネージャーを務める佐藤英之氏にじっくりと聞いた。(稲垣貴俊)

“総合的にとても良い1年だった”2024年

『デッドプール&ウルヴァリン』©2025 20th Century Studios / ©&TM 2025 MARVEL

――2024年のディズニー作品では、マーベル映画『デッドプール&ウルヴァリン』の大ヒットがまずは印象的でした。以前、佐藤さんは20世紀フォックスで『X-MEN』『デッドプール』シリーズの配給にも携わられていたんですよね。

佐藤英之(以下、佐藤):『デッドプール』の1作目を観たときは、あまりに面白くて、「こんなスーパーヒーロー映画があるのか」と思いました。日本公開は本国の4カ月後で、海外での公開も終わっていたので、マーケティングチームが主導して比較的自由に宣伝できたんです。おかげで映画は成功しましたし、とても楽しかったですね。『デッドプール&ウルヴァリン』も素晴らしい映画で、個人的にはシリーズで一番好きな作品になりました。思い入れがあるので、3回観たら3回とも同じ場面で泣いてしまって(笑)。

――ディズニーで『デッドプール』を配給することや、マーベル・シネマティック・ユニバース初のR指定作品となったことで、以前の作品とやり方の違いはありましたか?

佐藤:基本的にはありません。R指定なので宣伝しづらいと思われたかもしれませんが、R指定だからこそ皆さんの期待を高められるし、ターゲットを絞り込めるし、ちょっと型破りな施策ができる。1作目でやった「巨大デッドプールトラック」を進化させて各地を走らせたり、劇場スタッフの皆さんに“デッドプールが言いそうなこと”をスタンディに書いていただいたりと工夫したことで、多くの方に興味を持っていただけました。

――興行収入20億円という成績は狙い通りだったのでしょうか。

佐藤:1作目の20.4億円、2作目の18億円を超えることはひとつの目標だったので、まさに狙い通りの大成功ですね。シリーズ最高の記録を出せたのは、コアなファンに加え、「デッドプールなら観たい」というカジュアルなファンにも届いたためだと思います。

『インサイド・ヘッド2』©2025 Disney/Pixar

――ディズニー映画にとって、2024年はどのような1年間でしたか?

佐藤:総合的にとても良い1年だったと思います。洋画の興行収入では、実写映画第1位が『ライオン・キング:ムファサ』で、第2位が『デッドプール&ウルヴァリン』。アニメーションも第1位が『インサイド・ヘッド2』で、第2位が『モアナと伝説の海2』と、どれもディズニー作品です。コロナ禍以降、2023年までは興収が50億円を超える作品がなかなか出なかったのですが、昨年は『インサイド・ヘッド2』と『モアナと伝説の海2』の2本が50億円を超え、その他の作品も目標を達成したか、あるいは目標に近い成績を収めることができました。

――『インサイド・ヘッド2』と『モアナと伝説の海2』は、日本だけでなく世界的に予想以上のヒットになった印象です。

佐藤:やはり、どちらの映画も前作を超えることが目標でした。ともに素晴らしい物語で、普遍的なテーマが描かれていますよね。『モアナと伝説の海2』には「信じた道を進もう、仲間との絆を大切にして目的に向かおう」、また『インサイド・ヘッド2』には「ダメなところも含めて自分を愛してあげよう、完璧な人間じゃなくてもいい」というメッセージがある。試写会では子どもや家族連れだけでなく、40歳~60歳代のお父さん世代が泣きながら劇場を出てくる様子を何度も見ていたので、どの世代も共感できる映画として、大ヒットのポテンシャルは十分あると思っていました。

『モアナと伝説の海2』©2025 Disney

――ともにファミリー向けのアニメーション映画ですが、どのように差別化していましたか?

佐藤:ディズニー作品、ピクサー作品という大きな違いがありますし、モアナは非常に人気のあるディズニープリンセスの一人ですが、『インサイド・ヘッド2』は主人公が“感情”なので基本的な視点が異なります。また『モアナと伝説の海2』はミュージカル映画なので、まずは「ビヨンド ~越えてゆこう~」という歌を皆さんに聴いていただくことをマーケティングチームが考えてくれたんですね。「あっ、これは『モアナ』の曲だ」と思い出してもらえるようにと。主題歌をパワープレイし、何度も聴いていただくことで映画につなげる宣伝はディズニーが得意としている手法で、最近だと『ウィッシュ』も同じ作戦でした。

――『ウィッシュ』は日本で大ヒットし、インターナショナル(海外市場)では最高の興収記録となりました。逆に本国では想定通りの成績になりませんでしたが、そのような作品について、「日本ではどうするか?」という独自の施策は考えられるのでしょうか。

佐藤:宣伝プランはずいぶん前から計画しているので、全米公開のタイミングだと日本の宣伝も終盤を迎えていることが多いんです。そこから何かを変えるのはタイミングが遅いので、むしろ大切なことは、自分たちが準備してきた計画を最後までやり遂げること。大きな間違いは修正すべきですが、途中で右往左往したり慌てたりしないことが大事で、『ウィッシュ』はそれが結果につながった最たる例だと思います。

2025年の目玉作品は「すべて」

ウォルト・ディズニー・ジャパン ゼネラルマネージャーの佐藤英之氏

――日本映画製作者連盟の発表では、2024年の洋画興行収入が計511.8億円で前年から3割減、全体のシェアでは24.7%と4分の1以下になりました。2023年の全米脚本家組合・全米映画俳優組合によるWストライキで作品数が減ったことが主な要因とみられていますが、実際にはどのような影響がありましたか?

佐藤:ウォルト・ディズニー・ジャパンとして予想外の影響があったとは感じていません。洋画の興行収入のうち、実は半分近くがディズニーの興収で、年間興収を見ると2023年の204億円に対し、昨年は170億円弱なのでマイナス17%くらい。公開本数も、2023年の14本から昨年は11本に減っているので、(興収も)それくらいは下がります。もともと昨年から今年の公開にずれ込んだ作品もあり、そこはこれから頑張っていくところ。我々としては、2024年も以前と遜色のない成績で走り抜けられたと考えていますし、2025年もこの勢いを維持していると感じています。

――今年は『白雪姫』や『リロ&スティッチ』をはじめ、『ズートピア2』、『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』など人気作・話題作が多い印象です。どのように盛り上げていこうと考えられていますか?

佐藤:現時点では公開作品が14本決まっていますが、確固たるファンベースのある作品が多いことがラインナップのひとつの特徴です。『白雪姫』や『リロ&スティッチ』は初めての実写化なので、いかにファンの皆さんに届けるかが重要になりますし、一方で『ズートピア』は2作目、『アバター』は3作目なので興行収入の予測を立てられる。それ以上の結果を出すために、新しいお客さんにどう出会っていただくか――前作をストリーミングやテレビで観てもらいつつ、「新作は映画館で観てください」といかに訴求するかがポイントですね。作品の背景を考えながら、それぞれにマーケティング施策を計画し、独自のメッセージを打ち出していきます。

『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』©2025 MARVEL.

――マーベル映画も今年は3作品あります。先日公開された『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』のほか、ゴールデンウィークには『サンダーボルツ*』、夏には『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』が控えていますね。

佐藤:もちろん作品ごとの施策はありますが、たとえば『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』は『アベンジャーズ』の新作につながる話なので、取りこぼされてしまうとパズルのピースとしてはつらいですよね(笑)。だからこそ、コアなマーベルファンの皆さんをしっかりとつかみながら、2026年の『アベンジャーズ:ドゥームズデイ(原題)』までのメッセージを丁寧に伝えたい。まさか、ロバート・ダウニー・Jr.がドクター・ドゥーム役で戻ってくるとは思わなかったですもんね(笑)。作品数が多いので大変なことは承知していますが、1本1本単体の作品で観ても楽しいですし、やはりそれぞれの物語がどう繋がっていくかを一番見ていただきたいです。

――あえて、「今年はこれが目玉」という作品はありますか?

佐藤:すべて目玉です! 配給・宣伝に携わる者としては、それぞれの映画をきちんとヒットさせることが責務です。公開規模の大小はありますが、フィルムメイカーが情熱を込めてつくった映画を1本1本大切にして、彼らの伝えたいことを幅広いお客さんに届けることが我々の仕事。作品数を増やしすぎることなく、月1~2本ずつ新作を公開していくペースは非常に適切だと考えています。

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