『大奥』原作では語られなかった“お万好み”の理由 仲里依紗を取り巻く愛憎劇が開幕

『大奥』仲里依紗を取り巻く愛憎劇が開幕

 ようやく太平の世を築けたかと思えば、謎の奇病が猛威を振るい、若い男子が次々と死んでいく。時の将軍・家光までもが犠牲となり、このままでは幕府が虎視眈々と政権奪還を狙う者や外国から攻められ、日本は再び戦乱が訪れるやもしれぬ状況に陥った。

 そんな中、誰もが自分の欲よりも徳川の世を存続させるという使命を優先させ、その使命とともに散っていったのが、NHKドラマ10『大奥』の第5話において終幕した「三代将軍家光・万里小路有功編」といえるだろう。

 特に、誰よりも戦の恐ろしさを知る春日局(斉藤由貴)は生涯のすべてを徳川に捧げた。千恵(堀田真由)もその意志を継ぎ、家光として、将軍という名の人柱となることを決意する。そして、彼女の寵愛を受ける有功(福士蒼汰)も……。

 第1話「八代将軍吉宗・水野祐之進編」で、水野(中島裕翔)が吉宗(冨永愛)の最初の夜伽に選ばれた時に纏っていた裃を覚えているだろうか。黒一色で背中に水の流れを表した流水紋があしらわれていた。

 この流水紋はよしながふみの原作におけるシンボルで、有功が最初に纏ったことから“お万好み”と呼ばれている。なぜ、有功はこの紋様を好んだのか。原作では語られなかった理由が、有功の“大奥総取締”就任の場で明らかとなる。

 徳川の世を存続させるため、また「最後の時まで家光と共に」という春日局との約束を果たすためにも、有功は決断せねばならなかった。自分付きの小僧・玉栄(奥智哉)を家光の側室に据え、自らは床の相手から退くことを。代わりに有功は大奥を束ね、将軍である家光を支えていくことを願った。

 それは第一に、自らを苦しめる嫉妬から解放されるためだ。しかし、第二に、将軍の跡取りを生み、育てる場である大奥では避けられぬ嫉妬、羨望、孤独などの負の感情から同胞たちを救うためでもある。

「水の流れのように、ここにありたい」

 本来の人生や愛するもの、尊厳さえ奪われてもなお、自分らしく生きようとする覚悟が流水紋には込められている。水のように清らかでありたいという有功の願いは、家光との間にあった男と女の業を洗い流し、互いを思う純粋な愛だけを残した。そして、家光は春日局と同様にその命を国のために注ぎ切り、散っていく。残酷といえば、残酷だろう。有功の腕の中で、千恵として最期を迎えられたことが唯一の慰めである。

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