『ホットスポット』の本質は「ノンフィクションだから」 “なんでもない日常”こそが愛おしい

「いや、俺はSFじゃなくて、ノンフィクションだから」と大真面目に何度も言う宇宙人・高橋さん(角田晃広)の言葉が、なんだか笑えて、少しばかり考えさせられてしまうのは、この「SF史上かつてない小スペクタクルで贈る地元系エイリアン・ヒューマン・コメディー」『ホットスポット』(日本テレビ系)の本質とも言える言葉だからではないだろうか。
宇宙人からすれば未来人や超能力者こそが信じがたい存在である一方で、超能力者・瑞稀(志田未来)と友人の由美(夏帆)からすれば、高橋が宇宙人であることを到底信じることはできない(なぜなら彼があまりにも「宇宙人っぽくない」から)。それはどこか、誰かの日常は、誰かの非日常であるということを気づかせてくれる。

第9話で第1話の「ジョナ様」ことファミレスでの清美(市川実日子)たちの会話の内容を高橋が当ててみせるという場面において、綾乃(木南晴夏)の夫・信一(田村健太郎)が梅本市長(菊地凛子)の不正疑惑を知るという重要な局面も同時に進行していたことが明かされるという、見事な「伏線回収」が行われたように、「ジョナ様」では常にいくつもの日常が進行中だ。『ホットスポット』は、そんな無数にある誰かの日常の「特別」を描いたドラマだったのではないか。そして、すべては「高橋さんの生活を守るため」、もっと言えば清美たち「富士浅田市に集う人々すべて」の変わらない日常を守るために、ゆるく結束していく彼ら彼女らの友情が堪らない。
『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)のバカリズムによるオリジナル脚本の『ホットスポット』が、3月16日に最終話を迎える。宇宙人に未来人に超能力者と、次から次へと意表を突く新キャラクターが登場し、さらには第9話で突然登場した山田真歩演じる謎の女性の存在など、考察が止まらないドラマとして毎週日曜日を大いに楽しませてくれた本作であるが、何より興味深かったのは、一貫して描かれてきた「日常」の尊さと、ふとした拍子に訪れる「日常が日常でなくなっていく」瞬間の恐ろしさだったのではないか。

まず特筆すべきは、その日常が、こちら側の世界に限りなく近いということ。『架空OL日記』(読売テレビ・日本テレビ系)、『ブラッシュアップライフ』、そして本作へと連なる、様々な職業で働く人々の「日常」描写の素晴らしさは、主人公・清美が働く「レイクホテル浅ノ湖」の従業員同士のやり取りから、清美の幼なじみ・美波(平岩紙)が働く泌尿器科の看護師事情、葉月(鈴木杏)が働く小学校の先生事情に至るまで事細かに描かれていて、優れた俳優揃いだからこそできるリアルなやり取りの秀逸さも相まって、自分の経験してきた職場と重ねて見ずにはいられなかった。
登場人物たちのキャラクターもそうだ。「みんないい人」というよりは、ちょっと強情だったり、辛辣だったり、調子に乗ったりする一面を持っていて、だからこそ「こういう人いるな」の連続で面白い。そんなリアルな日常は、能力を使った後の、妙に人間味溢れる後遺症に悩まされる宇宙人・高橋の日常が加わったとしてもさほど揺らぐことはなかった。

そんな彼ら彼女たちの日常が最初に大きく動いたのは第5話から7話にかけての日本テレビのディレクター・岸本(池松壮亮)による『月曜から夜ふかし』の取材だった。行きつけの喫茶店「もんぶらん」に行列ができていることに対して美波が「繁盛しないでほしい」と思うことは常連のエゴかどうかを問う場面など「いつもの場所」がいつもの様相をしていないことに対する違和から第5話は始まった。街の人や登場人物たちが岸本による「最近身の回りで起こった個人的なニュース」のインタビューに答えることを通して、日常は瞬く間に「よそ行きの顔」をし始める。それは、レジ打ちがすごく早いスーパーの店員(中島ひろ子)や、「検尿カップ回収の世界大会とかあったら結構いいとこいくと思う」美波の存在がニュースになりかけるということでもあるが、最もスリリングに描かれたのは、複数の目撃情報を経て、同僚・小野寺(白石隼也)を巻き込みつつ、高橋の正体がバレそうになるという展開だった。






















