蓮佛美沙子×永作博美の抱擁は“愛”そのものだった 『バニラな毎日』が届けた幸せのあり方

見た目は芸術品のように美しく、食べれば豊かな香りと甘さが口の中に広がるお菓子は、最初から甘かったり膨らんでいたりするわけではない。ちょっと極端だが、お菓子は、だいたい粉と卵と牛乳とバターでできている。それらを混ぜたり焼いたり泡立てたりしていると、化学反応を起こして、だんだんお菓子になっていくのだ。
3月13日に最終回を迎えたNHK夜ドラ『バニラな毎日』は、「お菓子教室」をきっかけに、生い立ちも仕事も、抱えた問題もさまざまな人たちが交流しあう様子を描いたドラマ。あるカウンセラーから「お菓子教室」を紹介された“生徒たち”は、お菓子作りをしながら自分の悩みに向き合い、“先生”でもある白井葵(蓮佛美沙子)と佐渡谷真奈美(永作博美)の助けも借りながら、自ら暗闇の中から抜け出す微かな光を見つけ、心の中のモヤモヤを少し晴らしていく。その様子はまるで人と人の化学反応を見ているようだ。そうしているうちにできあがったお菓子は、どんなに不格好でも食べると甘くて美味しくて、いつでも“生徒たち”の新しい門出を祝福してくれていた。

さらに、この「お菓子教室」は、生きるために必死にもがいていた白井にも、過去の選択を後悔していた佐渡谷にも大切な「サードプレイス」になっていった。
他人の意見を聞かず、頑固だった白井は「お菓子教室」を通して変わっていく人々や、いつでも「大丈夫よ」と、無条件に自分を肯定する言葉をかけてくれる佐渡谷の存在によって次第に前向きになっていった。前を向いた人には、自分の歩むべき道が見えてくるのだろう。白井は、一度は閉店させたお店を再び復活させたいと動き出した。それまで十数種類出していた定番ケーキを、「お菓子教室」でも作った数種類に絞ったところからも、「サードプレイス」が白井に与えた影響の大きさが窺えるだろう。そんな白井の姿に今度は佐渡谷が触発され、昔、泣く泣く別れた最愛の人に会いにフランスへと旅立つという、驚異の行動力を見せていた。
大人になって、いい刺激を与えつつ、支え合える友人がいるのはとても幸せなことだ。こういう2人は互いの人生の大きな決断も応援できる。その代わり、それぞれが弱っているところを鋭く見抜いて放っておかないのもおもしろいところだ。

最終回となった第32回では、日本に残り、白井と洋菓子店をやると言っていた佐渡谷に、白井が「やりたいことがあるからもう一度フランスに行こうと思ったんじゃないんですか? 私をだしに使うんですか」と鋭く指摘。佐渡谷も「怖いのかもね。夢にもう一度挑戦することが」と不安を口にした。だが、真剣な表情の白井にすぐに「負けてられへん。やったる。あなたみたいに。私のルセット(レシピ)で人を笑顔にしたい。ぶちかましてくるわ!」と渡仏の決意を固めた。そして互いに「大好きよ」と伝えながら抱き合った。
女性同士の強い結びつきを、最近では「シスターフッド」ということがあるが、この白井と佐渡谷の熱い抱擁を捉えた場面を言い表すには、その言葉では弱い気がする。もはや2人の間には、恋人とも親子とも違う、大きな愛が芽生えていた。