『競争の番人』坂口健太郎演じる小勝負が見せた執念 正々堂々と“地味さ”を貫く潔さ
前回に続き、世界的電機メーカー「アレス電機」による“下請けいじめ”の調査が描かれた8月8日放送の『競争の番人』(フジテレビ系)第5話。オープニングの「公正で自由な競争を目指して」で取り上げられたのは、検察と公取との違い。できること、与えられた権限が違うからこそ、その戦い方も違ってくる。そして何より、小勝負(坂口健太郎)の言葉にあるように「検察と公取は守っているものが違う」。今回は公取が、どこまでも公取らしいスタンスで戦う姿が見られるエピソードであった。
アレス電機の柴野(岡田義徳)と旧知の仲であった丸川(吉沢悠)を説得し、他の下請け企業からも証言を得られた“ダイロク”チーム。しかしいざアレス電機の立入検査を行おうと思った矢先、検察から待ったがかかる。強盗殺人事件の捜査で“上”から止められていた検察は、横領を理由に柴野を捜査し、強盗殺人事件にも切り込もうと考えていたのだ。数日後、公取が立入検査に踏み込むと、直後に検察が捜索差し押さえに現れる。そして一通りの資料を持って行かれてしまい、公取に残されたのはごくわずかのみ。しかし検察はなんの手掛かりも得られないまま、押収した資料を返却してしまうのである。
「弱くても戦え」という言葉は、第1話から第3話で描かれた「ウエディングカルテル編」はもちろん、この第4話・第5話で描かれる「アレス電機編」でも根っこにあり続ける本作のテーマである。優越的地位に立ち、権力を振りかざす相手に対して諦めるのではなく、必死に食らいつかなければ何も変わらない。しかし、今回のエピソードでは「弱くて戦えない」と思って尻込みする人々に、実は「弱くない」のだと知る機会を与えるのである。見つけ出したごくわずかな資料の中から、小勝負は30社の下請け会社が他の会社から選び抜かれた、アレス電機が望むクオリティの製品を作るためには必要不可欠な存在であることを伝える。そして、対等な立場で交渉を行うことを焚きつけるのだ。
便宜上はどんなことでも“上”と“下”の関係というのは存在するものだ。しかし“下”は“上”に従属するのではなく、“上”を支える存在になり得て、そして支えないという選択肢を持つこともできる。つまりは上が必ずしも強者であり、下が必ずしも弱者とは限らない。ましてや物事を公正に取り行っていく上では、弱者と強者という関係であってはならないのかもしれない。先の「検察と公取の違い」の話に戻れば、犯罪捜査を行う上では検察が捜査の権限を持ち、公取が情報提供を行う立場にある以上、そこに上下があると見られてしまいがちだ。しかし不正に立ち向かうという共通点においては、対等な関係にある。対等である可能性を捨てないからこそ戦う意味が生まれ、それぞれの守るべきものを守ることができるのだ。
今回“ダイロク”のメンバーたちは限られた資料のブツ読みにひたすら徹し、検察が捜査を終えたあとの、ともすれば証拠が処分されてしまった可能性の高い資料をダメ元で読み漁ってきっかけを見つける。それでも証拠として動くには不十分であり、“説得”という方法を試みる。“立入検査”と“ブツ読み”、そして“説得”。“立入検査”はともかくとして、ドラマとして描くにはあまりにも地味な公取の武器。ドラマ向きではない公取という職業性を扱う上で、正々堂々とその地味さを貫くことのなんと潔いことか。
■放送情報
『競争の番人』
フジテレビ系にて、毎週月曜21:00~21:54放送
出演:坂口健太郎、杏、小池栄子、大倉孝二、加藤清史郎、寺島しのぶ、岡田義徳ほか
原作:新川帆立『競争の番人』(講談社)
脚本:丑尾健太郎、神田優、穴吹一朗、蓼内健太
演出:相沢秀幸、森脇智延
プロデュース:野田悠介
制作・著作:フジテレビ
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