2021年の年間ベスト企画
成馬零一の「2021年 年間ベストドラマTOP10」 “わかりにくさ”に心惹かれる1年
6位の『生きるとか死ぬとか父親とか』は映画監督の山戸結希がメイン監督としてジェーン・スーのエッセイをドラマ化した作品。エッセイストでラジオパーソナリティーとして働く娘といろいろと問題のなる父親の一筋縄ではいかない複雑なつながりとなっていて、最後まで目が離せなかった。
7位の『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』は交番勤務の新人女性警官の川合(永野芽郁)が元刑事の先輩警官・藤聖子(戸田恵梨香)の指導を受けて警察官として成長していく姿を描いたバディモノの刑事ドラマ。川合を見守る藤の目線が素晴らしく、緩いやりとりの中ににじみ出る二人の師弟愛に毎週励まされた。
8位の『前科者』は仮釈放となった前科者の更生と社会復帰をサポートする保護司の物語。物語も毎回面白かったが、何より保護司の佳代を演じる有村架純の芝居、特に顔がアップになった際に見せるなんとも言えない表情が素晴らしかった。映画『花束みたいな恋をした』、ドラマ『コントが始まる』(日本テレビ系)といった話題作に立て続けに出演し「2021年は有村架純の年」といっても過言ではなかったが、彼女の演技がもっとも爆発したのがこの『WOWOWオリジナルドラマ 前科者 -新米保護司・阿川佳代-』だろう。
9位の『きれいのくに』は“ルックス”を題材にした不思議な青春群像劇。20代後半の脚本家・加藤拓也が紡ぐ物語がキレキレで禍々しい吸引力があった。『夢中さ、きみに。』とは真逆の視点から10代の気分を掬い上げており、作者が当事者の年齢に近い分だけより切実な物語となっていた。
10位の『グラップラー刃牙はBLではないかと考え続けた乙女の記録ッッ』は金田淳子の評論エッセイ「『グラップラー刃牙』はBLではないかと1日30時間300日考えた乙女の記録ッッ」(河出書房新社)をグルメドラマの手法で映像化した規格外のドラマ。原作にあった熱量の高いBL語りの疾走感が見事に映像化された怪作で、ドラマの可能性を大きく更新した作品として忘れられない。ドラマタイトル部門があったならダントツで1位の作品である。
どの作品も一言二言で簡単に説明することが難しく、解釈が分かれるような曖昧な部分をあえて残そうとしているように感じた。そのような「わかりにくさ」に心惹かれる1年であった。
■作品情報
『夢中さ、きみに。』
Blu-ray&DVD BOX好評発売中
MBSドラマイズム、Hulu、TELASAにて配信中
出演:大西流星(なにわ男子)、高橋文哉、福本莉子、坂東龍汰、楽駆、前田旺志郎、望月歩、河合優実、伊藤万理華、横田真悠
監督:塚原あゆ子、高野英治、宮崎萌加
脚本:喜安浩平、濱田真和
原作:『夢中さ、きみに。』和山やま 著(ビームコミックス/KADOKAWA刊)
(c)「夢中さ、きみに。」製作委員会・MBS
公式サイト:https://www.mbs.jp/muchusa_kimini/
公式Twitter:https://twitter.com/muchusakimini