成馬零一の「2021年 年間ベストドラマTOP10」 “わかりにくさ”に心惹かれる1年

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2021年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は、地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出。第16回の選者は、ドラマ評論家の成馬零一。(編集部)

『夢中さ、きみに。』Blu-ray&DVD (c)「夢中さ、きみに。」製作委員会・MBS

1. 『夢中さ、きみに。』(MBS)
2. 『おかえりモネ』(NHK総合)
3. 『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)
4. 『俺の家の話』(TBS系)
5. 『岸辺露伴は動かない』(NHK総合)
6. 『生きるとか死ぬとか父親とか』(テレビ東京系)
7. 『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』(日本テレビ系)
8. 『WOWOWオリジナルドラマ 前科者 -新米保護司・阿川佳代-』(WOWOW)
9. 『きれいのくに』(NHK総合)
10. 『グラップラー刃牙はBLではないかと考え続けた乙女の記録ッッ』(WOWOW)

 他人とは共有することができない言語化が難しい感情、恋人や家族といった既存の概念では定義することが難しい人間関係や、今までにない個人の生き様を、ドラマならではの映像表現で描こうとした作品を中心に選んだ。

 1位の『夢中さ、きみに。』は、和山やまの同名漫画をドラマ化した青春群像劇。塚原あゆ子の演出が良い意味で暴走しており、映像作品として大変見応えがあった。一言でいうとライトなBLで、悩める男子高校生が同級生の男の子の何気ない振る舞いに救われる姿が繰り返し描かれている。劇中に登場する松屋めぐみ(福本莉子)の言葉を借りるならば「尊い」関係を描いた青春ドラマである。

 2位の『おかえりモネ』は、若い時に東日本大震災を体験した女性を主人公にした連続テレビ小説。安達奈緒子(脚本)の集大成といえる作品で、現代的なテーマがふんだんに盛り込まれた意欲作となっていた。震災という扱いが難しいテーマを扱っているが故に、きれいにまとまったとは言い難いが、むしろ、簡単には答えが出せない問題を「視聴者への問いかけ」として最後まで残したことこそが、本作最大の美点ではないかと思う。

 3位の『大豆田とわ子と三人の元夫』は坂元裕二脚本のロマンティック・コメディ。華やかで楽しい会話劇の中に不穏な要素がチラチラと見え隠れし、突然、ホラーになったかと思うとコメディに戻る先が読めない物語に最後まで惹きつけられた。坂元裕二の脚本と松たか子を中心とする役者陣の奮闘はもちろんだが、佐野亜裕美プロデューサー率いるドラマチームの頑張りが、作品のクオリティを高めていた。こんな不思議なドラマが民放のプライムタイムで放送されていたことに希望を感じる。

 4位の『俺の家の話』は『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)から続く宮藤官九郎(脚本)×磯山晶(チーフ・プロデューサー)コンビによる長瀬智也主演のホームドラマ。親の介護、プロレス、能楽といった題材の描き方はもちろんだが、背景にあるコロナ禍の見せ方が秀逸で「マスクのある日常」をドラマでどう描くか? については、今後の指標となるのではないかと思う。

 5位の『岸辺露伴は動かない』は荒木飛呂彦の人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険 Part4』のスピンオフ短編集を映像化した現代怪異譚。昨年末に3話放送され今年の年末にも3話放送された。どのエピソードも完成度が高いのだが、原作をそのまま映像化するのではなく、ドラマならではの表現に落とし込んでいる。何より高橋一生を筆頭とする役者のポテンシャルを極限まで引き出しているのが素晴らしい。原作漫画のもっとも理想的なドラマ化である。

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