何かを守るために戦う女性たち 『ワンダーウーマン』『透明人間』など2020年のヒロインから学ぶ

2020年洋画シーンのヒロイン像を振り返る

 2020年は誰もが疲労し、圧迫感とたくさんのストレスを感じた1年だった。だからこそ、時に自分の器から負の感情が漏れ出てしまい、誰かに心ない一言を言ってしまったり、何かを攻撃してしまったりした人も少なくないのではないだろうか。大変だったけど、私たちは頑張った。健康に、ここまでひとまずやってこられたのは、恐らくスクリーンの向こう側の彼女たちの戦う姿に奮い立たされたからかもしれない。

『ワンダーウーマン 1984』(c)2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (c) DC Comics

 軒並みハリウッド大作の公開が延期となった2020年、最後にギリギリ公開されたのが『ワンダーウーマン 1984』だ。前作では第一次世界大戦の最中に活躍したワンダーウーマンが、本作では80年代の欲望渦巻く物質主義の世界で再び人類を守るために戦う。彼女は誰がどう見ても、ヒロイン中のヒロイン……いや、“ヒーロー”だ。ヒロインという言葉は、ヒーローの女性形でしかない。つまり、男性の英雄がいる前提で活躍する女性のことを指している? それなら、今年は彼女以外にもたくさんのヒーローが存在した。ワンダーウーマンのように派手に人助けをしたわけではないけど、現実社会の私たちを救うためにその身を呈して何かを訴えかけてくれたキャラクターがたくさんいる。

『ミッドサマー』(c)2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.

 例えば、『ミッドサマー』のダニー。映画は祝祭のために訪れたスウェーデンの村に訪れた大学生たちが、次々と消えていくカルトホラー。しかし、本作は始まりから終わりまでダニーの身に降りかかった理不尽な出来事、彼女の家族の集団自殺によって受けた精神的トラウマを克服しようと、自立する物語なのだ。その自立のために一刻も早く離れなければいけなかったのが、彼女の身を案じて付き添ってくれる“一見優しそうな彼氏”。彼は正直、ダニーに同情はするけど心底面倒くさいし、別れたいのにタイミングが見つからないだけで彼女のことなんか愛していない。愛のない同情は時に、当事者の自立心を削ぐ。それだけでなく、自己肯定感を下げることもある。この彼氏は嫌な男ではあるが、それは表面的にはわかりづらい。立場が対等ではない恋愛関係が、結果としてどちらかを押さえ込んだり、支配したりするものに変わってしまうモヤモヤや違和感が、この映画のおかげで言語化ないし映像化された。トラウマを乗り越える上で、自分を大事にしないパートナーを取り除くことに(協力的な村人のご支援をいただいて)成功したダニーの、自ら解放へと向かっていく姿勢は一定数の女性にとって勇気づけられるものだった。誰かを救うだけがヒーローじゃない、自分のことを救ってあげることができれば、それはもうヒーローと言えるのではないだろうか。

『透明人間』(c)2020 Universal Studios. All Rights Reserved.

 ダニーは己の抱える負の感情の克服をした意味合いが強いヒーローだが、より男性支配から逃れるために戦ったヒーローたちもいる。『透明人間』の主人公セシリアが、まさにそうだ。彼女は自分の着る服、容姿、食べ物、そして思考までが恋人の望む通りに支配されていた。そしてある日、逃げ出す。ところが恋人は目に見えない特殊スーツを着て、自分の死を偽装し、安心する彼女を再び恐怖で支配しようと背後に忍び寄る。誰も映っていない、空白となった部分に彼が潜んでいる気がする。そういう恐怖演出と、その魔の手から再び逃れようと対峙する女性の強さを描く、本当によくできた素晴らしい作品だった。

『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』(c)2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

 クリストファー・ノーラン監督最新作の『TENET テネット』と『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』も同じメッセージ性を持っている。気に入った相手を暴力的に支配する男に対し、銃弾とキックをお見舞いしたキャットとハーレイ・クインの活躍もここで讃えたい。特に『華麗なる覚醒』ではブラックキャナリーとハーレイという、男性の支配下にいる女性とそれを拒み続ける女性の関係性にも触れている。対立していた彼女たちが、他の女性陣と徒党を組んでブラックマスクに打ち勝つ終盤のシスターフッドもいい感じだ。

 女性と女性がいがみ合って仲良くしない。そういう、「女同士ってなんだかんだ陰口ばっかりで仲良くなさそう」という男性側のイメージは従来の映画に様々な形で投影されてきた。でも、バーズ・オブ・プレイのようにシスターフッドを守り抜いたヒーローたちを描いた作品は今年多かった気がする。例えば『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』。幼少期からの親友であるエイミーとモリーが卒業式前夜にハメを外すコメディだが、終始2人の自己肯定感の高さと仲の良さが楽しい映画だった。体型も性的趣向も違う彼女たちが、お互いを“普通に”受容し合う。それがビッグディールではなく、ごく当たり前のこととして物語が進んでいくことに、意味深さを感じた。

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