何かを守るために戦う女性たち 『ワンダーウーマン』『透明人間』など2020年のヒロインから学ぶ
そして『海底47m 古代マヤの死の迷宮』も、サメパニック映画の皮を被った立派なシスターフッド映画なので是非触れておきたい。両親が再婚し、姉妹になった2人。ミアは学校で陰湿ないじめを受けているが、それに対して黙認するしかできないサーシャ。ただ、これって凄くリアルなキャラクター設定というか、まだ友達としても絆のない相手のために悩まず正義感を振りかざしていじめをやめさせるって、それこそ映画や漫画の中でしかあり得ないっていうほど、難しいことだ。しかしこの2人が、海底洞窟に囚われてしまい、盲目のサメから逃れるために手と手を取り合っていく展開が美しい。本当の意味でお互いを信用し、背中を預けて助け合うことをしていて、ラスト10分の怒涛の救い合いがアツすぎる。
この2人のように、絶体絶命の中で自分とパートナーの命を守ろうと懸命に戦ったヒーローたちが他にもいる。『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』と『アドリフト 41日間の漂流』はどちらも実話に基づいたもので、どちらも過酷な環境下で男性がダウンし、女性がそれをカバーするかのように奮闘する。『イントゥ・ザ・スカイ』では、高度12000メートルで瀕死状態になったジェームスを置いて、アメリアが気球の上にヒールで登って死にかける。『アドリフト』はハリケーンに飲み込まれたヨットに乗っていたカップルが遭難。リチャードが早々に瀕死状態になり、タミーが食料や水を調達しながら、なんとかセーリングの知識を用いて陸を目指そうとする。
この2作品、とても似ている。アメリアもタミーも、自分のナレッジをフル活用してパニックにならずに、その場を切り抜けようと頑張る。これは従来の映画における女性の役割から離れ、マンパワーを必要としない女性像が描かれているのだ。そして、もう一つ時代性の面で意味深いと思うのは、“男性が倒れてもいい”こと。「男はしっかりして女を守るべきだ」、みたいな固定観念は時に男性を苦しめる。男性だって、女性に頼ってもいいのだ。どちらも、同じ対等な人間として、対等に強い時も弱い時もあるからこそ、足りないところを補って支え合うべきではないか、というメッセージがこの2作品からは強く感じとれた。
それに対し、古典的なジェンダーロールとまだ戦っている最中のヒーローたちもいた。『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』は、女性の在り方に疑問を抱く次女のジョーと、時代の中で求められる女性像に合わせていく長女メグ、四女エイミーが比較されて描かれている。「女性は結婚するべきだ」という固定概念に抗い、女性の自由な発想と社会進出を重んじるジョー。しかし、結婚することに本当に幸せを感じるメグやエイミーもいるわけだ。本作は異なる考え方の女性が登場するので「どちらかの思想が正しい!」ではなく、女性間における考えの相違を理解しあい、受け入れ合うことも大事だと映画を観て学んだ。韓国のベストセラーを映画化した『82年生まれ、キム・ジヨン』も、社会での女性のあり方を強いられた性差別に耐えながら、壊れていくジヨンを描いた作品。彼女の痛みはスクリーンを通して、同じ境遇の女性たちを共感させたに違いない。
ジェンダーロールの苦しみは、性格差に止まらず経済格差さえも生み出す。『ハスラーズ』はまさに、男性や社会に虐げられるストリッパーの女性らが怒り、復讐する作品だ。文字通り体をはって大金を稼いでも、お金が足りない。そんな懸命に働いている彼女たち、労働者のお金は裕福な者に吸い取られていく、 “持てる者と持たざる者”が生まれる社会システムに中指を立てた力強いメッセージに完敗だ。本作はそれだけでなく、先述のようなシスターフッドもテーマの一つとして描いている。
アメリカで問題視された『ザ・ハント』も、富裕層が個人的な理由で一般人を誘拐し、人間狩りをする“持てる者と持たざる者”の映画だ。そして本作のヒーロー、クリスタルが気持ちいいぐらいサクッと彼らを殺していくのが爽快感抜群。この映画は人間狩りを始めたボス的存在も女性キャラクターだったのが、フェアで好印象だった。『パラサイト 半地下の家族』も経済格差を描いた作品だが、とにかく女性陣のメンタルが強い。本作では一家の生活をどうにかするために、長女のギジョンが兄の偽造書類を作成するところから始まる。それに加え、運転手をクビにするのに一役買うし、母親チュンスクは中盤からラストにかけて大いに活躍する。半端ないプレッシャーの中で、あんなに早く、そしてめちゃくちゃ美味しそうなジャージャー麺を作った彼女は最強だ。