カンヌ&アカデミー賞でも快進撃 映画会社「NEON」とNYに向けられる熱い眼差し

どんな時にも“ブームの映画会社”はある。“ブーム”というのは、例えばショーレースの場を賑わせたり、映画ファンがこぞって話題にあげるスタジオや配給会社だったり。近年で言えば「A24」がその良い例だろう。雑誌でも特集が組まれ、「A24が手がける」ことが作品の持つ付加価値の一つになっていたほどだ。そして今、“A24の次に来る”と注目株の映画会社は間違いなく「NEON」だろう。
設立8年目の新進気鋭の会社として
「NEON」はアメリカのインディペンデント系映画の製作・配給会社だ。CEOのトム・クインと、テキサス発祥の映画館チェーンである「アラモ・ドラフトハウス・シネマ」の共同設立者ティム・リーグによって2017年1月に設立された。同年9月にはBH Tilt(2014年に設立されたブラムハウス・プロダクションズのマルチプラットフォーム部門)の管理で、ブラムハウス・プロダクションズと提携。そして2018年には、ダン・フリードキンが会長兼CEOを務める「ザ・フリードキン・グループ」の傘下であり、フリードキンとミカ・グリーンによって設立された独立系映画製作への資本投資に特化した会社「30WEST」に「NEON」の過半数の株式が売却された。それゆえ、「NEON」は現在「30WEST」の子会社という立場にある。
「NEON」が若干8年目の会社なのにここまで目覚ましい躍進を遂げている理由の一つは、その驚くべき成長速度かもしれない。2021年2月には同じような映画配給専門の独立系映画会社「ブリーカー・ストリート・メディアLLC」と提携し、共同でホームエンターテイメント配給会社「Decal」を設立。これは「NEON」と「ブリーカー・ストリートLLC」がそれぞれの長編映画のホームエンターテインメント権に関する配給契約を扱う独立したフルサービス事業だ。すでに南アフリカのホラー映画『Gaia(原題)』の北米配給権を獲得したことでも話題になっている。
映画祭、アカデミー賞で着実に積んできた実績
そんな「NEON」による近年の看板作品といえば、『パラサイト 半地下の家族』(2019年)、『TITANE/チタン』(2021年)、『逆転のトライアングル』(2022年)、『落下の解剖学』(2023年)、先日の第97回アカデミー賞で作品賞を含む5部門を受賞した『ANORA アノーラ』(2024年)など。恐ろしいことに、ここに挙げた作品全てがカンヌ国際映画祭にて最高賞のパルムドールを受賞している。2020年は新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、映画祭の開催はなかった。つまり、「NEON」は“設立以降の毎年”パルムドール作品の配給権を獲得しているのだ。

カンヌは長年にわたって、配給会社にとって大きな成功の場であることが証明されてきたが、「NEON」ほどその実力と成功を証明してきた映画会社は未だかつてなかった。「NEON」設立時に入社し、買収及び制作担当社長を務めるジェフ・ドゥッチマンはこれについて「“カンヌをやる”うえで、唯一の、そして真の方法はできるだけ多くの映画を観に行くことです。なぜなら次なる『籠の中の乙女』(ヨルゴス・ランティモス監督作)や『ボーダー 二つの世界』(アリ・アバッシ監督作)、『HUNGER/ハンガー』(スティーヴ・マックイーン監督作)、『フレンチアルプスで起きたこと』(リューベン・オストルンド監督作)がどこから飛び出してくるかわかりませんからね」とSCREEN DAILYへのインタビューでコメントしている。

もちろん、上記のパルムドール作品はアカデミー賞でも成績を残している。ここ近年、アカデミー賞会員の年齢層が広がったことがインディペンデント映画の躍進に繋がっている可能性が高いが、より独立でアート系の作品が選ばれるカンヌと、よりマスに開かれたようなアカデミー賞作品の垣根がなくなりつつあることも、「NEON」の活躍あってのことかもしれない。CEOのクインは2023年、カンヌでの成功について「長年にわたり、受賞作の信頼性と成功によって、パルムドールは若い映画ファンにとって非常に影響力のあるものになっていることがわかりました」とコメント。2024年には「パルムドールは大きな意味を持っています。最も冒険的で未来志向の映画を求めている観客にとって、この賞はその答えとなっている。なぜならこれまでの受賞作がその期待に応え、オスカーの有力候補になってきたからです」と、語った。彼の発言から、むしろこれまでパルムドールとオスカー受賞作の評価軸や評価人が差別化されていて、別物として捉えられてきた空気が読み取れる。そして今、ハリウッドがようやくパルムドールに目を向け始めたということも。