何かを守るために戦う女性たち 『ワンダーウーマン』『透明人間』など2020年のヒロインから学ぶ
さて、ここまで2020年に公開された女性が印象的な作品を振り返ってきたが、最後に改めて『ワンダーウーマン 1984』に話を戻したい。本作では、「なんでも一つの願いを叶える石」を巡って、それぞれが思い思いに願い事をする。ワンダーウーマンもといダイアナは、前作で亡くなったスティーヴともう一度会いたいと願う。すると、彼の魂が蘇り他の男性の中に入る(ダイアナ視点では顔がクリス・パイン)。その辺の「中の人大丈夫?」という心配はさておき、要はこれまで自分の欲を無視して人類のために戦ってきた彼女が唯一願ったことが「愛する人とともにいる」ことなのだ。ワンダーウーマンだって、1人の女性だ。しかし、石の力を事業家マックスが取り込み、世界を混沌にしてしまう。人々が欲望に身を任せ、他者を気遣う精神を失い、攻撃し合う。願い事には代償が不可欠で、ダイアナはパワーを失いかけていた。その彼女が再び人類を救うために自分の唯一の願いを諦めて、悲しみに打ちひしがれながら敵陣営に向かう姿が辛い。
しかしもっと心打たれるのは、たくさん辛い思いをした彼女なのに、それでも最後に人間と愛を信じるその姿勢だ。誰もが自分の欲望のままに行動すれば、戦争は生まれ、環境は破壊され、社会は崩壊する。現実社会でも同じことが起きていて、特に2020年は鬱憤の溜まりやすい年だったからこそ人々がお互いを傷つけたり攻撃的になっていた。SNSシーンでは、向こう側の人の気持ちを考えずに放った140字以内の言葉とヘイトが、相手の命を奪ったことさえあった。ダイアナは、「世界の美しさを思い出してほしい」と涙を流して訴えながら、そんな私たちを大きな愛で抱きしめてくれた。
たくさんスクリーンの中で活躍した女性がいた、2020年。その中でもやはり、ダイレクトに我々に何かを伝えようと全てを投げ打ったダイアナが印象的だった。来年も、恐らく今年の余波があり、さらに状況が悪化してしまうことだってあるかもしれない。それでも、私もヒロインではなく、“ヒーロー”のワンダー(素晴らしい)ウーマンになりたい。人類相手というのは無理だけど、大変な時でも自分自身と、隣人くらいには憎しみではなく愛で何かを返せる人になりたい。
■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。2020年は「あつ森」にメンタルを支えられた。Instagram/Twitter
■公開情報
『ワンダーウーマン 1984』
全国公開中
監督:パティ・ジェンキンス
出演:ガル・ガドット、クリス・パイン、クリスティン・ウィグ、ペドロ・パスカル、ロビン・ライト
配給:ワーナー・ブラザース映画
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