劇場と配信プラットフォーム共存の時代へ? Netflixの劇場買収がハリウッドに及ぼす影響を考える

 一方で、ハリウッドではマーティン・スコセッシやスティーヴン・ソダーバーグなど、配信コンテンツに積極的なベテラン監督も増え、配信だけで公開される長編作品の名作も生まれている。ハリウッドとしてはそれを無視し続けるわけにもいかず、毎年繰り返される劇場対配信の議論について、何らかの解決策が必要だという空気があった。これはつまり暫定的な特例措置ではなく、何をもって「映画」とするのかという、より本質的な再定義づけの必要性で、そんな状況下で飛び出してきたのが、冒頭のNetflixのによる劇場買収のニュースだった。

 だがここで重要なのは、Netflixがこれらの映画館を手に入れたのは、彼らが配信と共に劇場ビジネスにも手を出したかったから、というわけではないことである。もし劇場ビジネスをやりたいのであれば、パリスやエジプシャンのような単館ではなく、それなりの規模の劇場チェーンを買い取るなど、いくらでも別の方法があったはずである。けれど配信というデジタルで完結するビジネスモデルと、座席からポップコーンまで全ての物理的要素が必要となる劇場モデルとでは、あまりにも相容れないものが多すぎる。

『アイリッシュマン』Netflixにて配信中

 それよりもNetflixが映像スタジオとして早急に、そして今後も継続的に欲しいのは、アカデミー作品賞の名誉だろう。2019年2月に開催された第91回では、ついに『ROMA/ローマ』がNetflixオリジナル作品として初めて作品賞へのノミネートを果たした。また、今年開催された第92回でも『マリッジ・ストーリー』と『アイリッシュマン』の2作が作品賞にノミネートされたが、受賞はまだない。これらの作品も、限定的ながら劇場公開へと踏み切ったのは、作品を生み出したベテランフィルムメーカーたちへの敬意を除けば、賞レースにノミネートされる条件を満たすために他ならない。

 現在、アカデミー賞のノミネートには、基本的にロサンゼルスで7日間以上商業公開されることが条件となるが、海外の映画祭での評判も賞レースでは重要な要素になる。前述のようにカンヌ国際映画祭でもフランスで劇場公開をしない作品を、コンペティション部門の選出から締め出すなど、配信ファーストのモデルに反対する姿勢を明確にする中、毎年のようにこれらの条件で苦労を強いられるくらいならば、自ら劇場を所有することで、自由に上映できる環境を整えた方が楽なのかもしれない。

 さて、ハリウッドの業界にとっては、Netflixによるこれら2館の獲得は何を意味するのだろうか。まずメジャースタジオや独立系配給会社にとっては、当然ながら、劇場における競争相手が一社増える可能性が出てくる。これまではあくまでも劇場対配信という構図だったのが、劇場公開の枠組みの中でオーディエンスの奪い合いが発生することになる。

 ただし、これはあくまで可能性であって、同社作品がすぐに他のメジャースタジオによる大規模公開作品を脅かす状況になるとは考えられない。スタジオによる作品は、例えば全米で3000スクリーンを超えることも珍しくないほどの規模で上映され、わずか2館の劇場公開がそれに太刀打ちできるとは考えられない。Netflixが現在の配信ビジネスから、例えばそのライバルであるAmazonのように、伝統的な「映画」として劇場配給と共存することを前提としたモデルに舵を切らない限り、Netflix自身にとっても、2館が大きなビジネスの転換点になるということはない。

 その証拠に、Netflixが手に入れた2館の使い方として、自社作品の特別上映やプレミアイベントなどに使われることが想定されていると「Deadline」や「IndieWire」など複数の記事で報じられている。また、エジプシャン・シアターの前オーナーである非営利団体アメリカン・シネマテークは、これまでにも様々な上映プログラムをエジプシャンシアターで行ってきたが、今回の買収後も、週末のプログラムは続けられることになっており、Netflixが自社作品の上映に使用できるのは平日のみとなる。一方で、主なオーディエンスがロサンゼルスとニューヨークの映画好きに偏るインディ系のアート映画になると、直接的なパイの奪い合いが発生する可能性もあることは否定できない。



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