劇場と配信プラットフォーム共存の時代へ? Netflixの劇場買収がハリウッドに及ぼす影響を考える

 2019年11月下旬、大手配信プラットフォームのNetflixが、米ニューヨークの老舗映画館パリス・シアターを長期リースするという契約を結んだ。これは経営難に陥っていた同シアターを閉館から救ったとして話題を呼んだが、その半年後の2020年5月29日には、同じくNetflixが1年に渡る交渉の末、ハリウッドのランドマーク的存在であったエジプシャン・シアターを買収したことが発表された。これをもって、彼らはアメリカ映画市場における東西それぞれの中心都市で、映画館を手に入れたことになる。これはNetflixにとって、またハリウッドにとって、どういう意味をもつのかを考えたい。

 パリス・シアターは70年以上続いた老舗で、一つのスクリーンしか持たないアート系劇場としてのブランドが確立されていた。同じくエジプシャンも、こだわりを持ってセレクトされた作品を上映する劇場として、そのユニークな建築とともに、ハリウッドで独特の立場を持っていた。Netflixが配信プラットフォームとしての存在感を日に日に増していく中にあって、ニューヨークとLAでともにアイコニックな劇場を手にしたことは、大きな驚きであり、同時にその場所の選定が、話題性という意味でもあまりに「うまい」と感じた。

 Netflixが単なる他社作品の配信だけではなく、オリジナル作品の製作に乗り出してからというもの、他を寄せ付けない勢いともいえる近年の成功とは裏腹に、特に長編「映画」作品においては、自社プラットフォームでの独占的な公開を前提としたビジネスモデルの特性から、劇場公開を想定した伝統的な映画ビジネスとの折り合いは、決して良いとは言えなかった。

 故にアカデミー賞作品の選考を行う映画芸術科学アカデミー会員の中にも、同社のやり方に対して反対を示す保守的な会員がいたり、映画文化を頑なに守るフランスで開催されるカンヌ国際映画祭のように、同社作品を明確に「映画」というカテゴリーから締め出そうとする勢力もある。対するNetflixも、その流れの中で大きな妥協を示すことは、自社の徹底した配信ビジネスのモデルを危機にさらすことにつながるため、両サイドによるせめぎ合いが続いていた。

 また、映画を上映する映画館(興行主)側にも、Netflixとの対立が存在していた。映画は伝統的に、まず劇場で公開した後、配信やホームビデオなど、次のウィンドウで視聴可能になるまで、しばらく期間をあけるように調整を行うのが通例となっており、アメリカにおいては3ヶ月というのが一般的な期間であった。

『トロールズ ミュージック★パワー』(c)A UNIVERSAL PICTURE (c)2020 DREAMWORKS ANIMATION LCC.ALL RIGHTS RESERVED.

 この5月、コロナ禍で映画館の閉鎖が余儀なくされている中、ハリウッドのスタジオの一つであるユニバーサルが、自社作品『トロールズ ミュージック★パワー』の劇場公開をやめ、プレミアムVOD (PVOD)という形で配信公開に踏み切ったことで、大手劇場チェーンが猛反発したことは記憶に新しい。あくまでも配信ファーストを守りたいNetflix側と、それを許すことが収入の減少に直結する映画館との距離は、これまで縮まることはなかった。過去にも『ビースト・オブ・ノー・ネーション』『アイリッシュマン』『マリッジ・ストーリー』など、Netflixによるオリジナル作品に対して、作品の質にかかわらず上映を拒否する劇場が続出し、大規模公開が叶わないという憂き目をみてきた。

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