アカデミー賞に大きな影響も? アワードシーズン、賞レース前半戦の行方

ハリウッド賞レース前半戦の行方

 秋の到来とともに、ハリウッドでは今年もアワードシーズンが始まった。この「アワードシーズン」というのは、ハリウッドで毎年2月末から3月初めに行なわれるアカデミー賞授賞式をピークとし、ゴールデングローブ賞、ゴッサム・インディペンデント映画賞、全米映画批評家協会賞、全米監督協会賞など、秋から冬にかけて発表される一連の映画賞シーズンのことを指している。

 ハリウッドではこれに合わせて、比較的はっきりとした年間の映画公開のサイクルがあることは、日本ではあまり知られていない。アメリカでの公開から日本公開までのタイムラグや、作品によっては日本で公開されないものもあることを考えると、当然かもしれない。

 このサイクルを簡単に説明すると、毎年おおよそ5月~8月の夏の間は、メジャースタジオや配給会社各社が毎週のようにスーパーヒーローものや、エンターテインメント色の強い大作を打ち出すシーズンとなっており、9月から年末までは各社アワードシーズンに照準を合わせて、アート性の高い作品、あるいは強い社会的なメッセージを持った作品など、いわば「アワード/映画祭向け」な作品(アメリカでは「フェスティバル・ダーリン」などと呼ばれている)が配給の中心となる。このため秋から冬は、ロサンゼルス市内のビルボードや映画雑誌などには、自社の作品をアピールする「For Your Consideration(「ご検討よろしくお願いします」といったような意味)」の文句が溢れかえることとなる。

 このサイクルの具体例を出してみると、例えば今年の夏に大きな話題をさらったスーパーヒーロー映画2タイトルの1つ、『ワンダーウーマン』は2017年6月2日にアメリカ公開(日本公開8月25日)、そしてもう1つの『スパイダーマン:ホームカミング』は7月7日(同8月11日)の公開となっているし、毎度壮大なスケールで見応えのある作品を作ることで知られるクリストファー・ノーラン監督の最新作『ダンケルク』は、7月21日(同9月9日)に公開された。

 一方、今年3月に行なわれた第89回アカデミー賞で見事作品賞を受賞した『ムーンライト』の全米公開日は2016年10月21日(日本公開2017年3月21日)、そして同作と作品賞を競った3タイトル『メッセージ』、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』、『ラ・ラ・ランド』はそれぞれ、2016年11月11日(同2017年5月19日)、11月18日(同2017年5月13日)、12月9日(同2017年2月24日)に公開された。

 もちろん全ての作品・ジャンルがこのサイクルに当てはまるわけではないが、これから年末までにアメリカで公開される作品の多くは、スタジオや配給会社各社が賞レースに乗せたいと考えている、いわば「本気の」作品であるといっても過言ではない。

 今年のアワードシーズンの締めくくりとなるアカデミー賞授賞式は、2018年は3月4日開催予定となっている。これまでの例に漏れず、これから賞レースを戦う作品の比較、批評や、各賞のノミネーションと結果をめぐって多くの記事が書かれ、シーズンが盛り上がっていくことになると思われるが、先日早くもこのアワードシーズン前半で重要な意味を持つ、三つのイベントが行なわれた。それが毎年共に北米で行なわれるテルライド映画祭とトロント国際映画祭(TIFF)、そして三大映画祭の一つであるヴェネツィア国際映画祭である。

 テルライド映画祭は毎年アメリカのコロラド州で行なわれる映画祭で、あまり規模は大きくないが、オスカー受賞作候補を占う前哨戦としてこのところ注目度が増している。この映画祭が面白いのは、開催直前までプログラムが公開されないというところ。基本的に最新の長編作で北米プレミアとなるものを上映しているが、こういったシステムにも関わらず、この映画祭が高い評価を受けていてるのは、選出される作品の質ゆえである。

 一方のトロント国際映画祭は、北米最大規模の映画祭として知られているが、やはりアメリカの隣国カナダで開催されることもあってか、ヨーロッパで行なわれる3大映画祭よりも、ハリウッドでの注目度は高い印象を受ける。こちらは低予算のアート系作品に加え、ハリウッドのメジャースタジオによる作品も多く、よりエンターテインメント色が強い。そして、恐らくこの三つの中で日本で一番良く知られているヴェネツィア国際映画祭は、日本人監督による作品も多数出品されることから、特にコンペティション部門の行方が日本でも注目される。これとは対照的に前述の二つの北米の映画祭は、共にコンペティション部門を持っておらず、トロントでは「観客賞(ピープルズ・チョイス・アウォード)」が最高賞となる。

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