アカデミー賞に大きな影響も? アワードシーズン、賞レース前半戦の行方
ところで、これら三つの映画祭では、アカデミー外国語映画賞受賞、及びノミネート作品も多く上映されてきたことは上でも述べた。世界各国1作品ずつ出品された中からまず9作品が選ばれ、さらに正式ノミネート作品として5本に絞られた中の1本が受賞する外国語映画賞であるが、今年の三つの映画祭で上映された英語圏以外の作品にも、外国語映画賞のノミネートに関わる作品が含まれていると考えていいだろう。
まず筆頭に挙げるべきは、テルライド、及びトロント映画祭で上映された、ロシア人監督アンドレイ・ズヴィギャンツェフ監督による『Loveless(原題)』。こちらは、今年5月に開催された第70回カンヌ国際映画祭でも審査員賞を獲得し、アカデミー外国語作品賞の有力候補と見ることができるだろう。また同じく今年のカンヌでパルムドールを受賞したスウェーデンのリューベン・オストルンド監督による『The Square(原題)』もトロントで上映。デンマークの俳優クレス・バングと、9月17日に行なわれた第69回エミー賞を圧巻した『The Handmaid's Tale(原題)』主演のエリザベス・モスが出演している。
さらに、アンジェリーナ・ジョリーによる監督作品『最初に父が殺された』は、1970年代のポル・ポト派のカンボジア人虐殺を描いた実話で、カンボジアからのエントリー作品。また2009年のヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を獲得した『レバノン』で知られるイスラエル人監督サミュエル・マオズによる『Foxtrot(原題)』は、テルライド、ヴェネツィア、そしてトロント全ての映画祭で公開された作品の一つ。The Hollywood Reporterでは「現代イスラエルへの、とりわけ幼い子供たちを国の政治課題を背負う兵士として駆り出すことへの、大胆かつ怒りに満ちた批判であり、悲惨さの極みにある現代主義的な映画の良例である」という批評を出し、「秋の映画祭最高の作品(Best of the Fall Festivals)」のタイトルの一つとして扱っている。
10月に入り、これから秋が深まるにつれてアワードシーズンはさらにヒートアップしていく。ここで紹介した作品以外にも、ヴェネツィア、テルライド、トロントで注目を集めた作品はあるし、上の三つの映画祭に姿を見せていないながらも賞レースで強さを発揮する作品もきっとあることだろうが、各作品が今後どのようにアカデミー賞に向けたシーズンを渡っていくのか、目を離すことはできない。しかしここで注意したいのは、賞はあくまで良い作品を作ったことへの名誉であり、映画を作る目的になるべきではない。惜しくも受賞やノミネーションを逃すタイトルにも、魅力的な作品や、観る人それぞれにとって重要な意味をもつであろう作品は山ほどある。そうは言っても、華々しいハリウッドはこれからより一層の盛り上がりを見せる。わくわくしながら映画の祭典のシーズンを楽しみたい。
参照
http://oscar.go.com/
http://www.hollywoodreporter.com/lists/best-fall-festivals-thr-critics-picks-toronto-telluride-venice-1038742/item/three-billboards-ebbing-missouri-best-fall-fests-2017-1038783
http://www.indiewire.com/2017/09/toronto-2017-winners-losers-oscars-1201876327/
http://www.hollywoodreporter.com/news/venice-film-festival-awards-announced-1037091
http://deadline.com/2017/09/three-billboards-outside-ebbing-missouri-toronto-film-festival-peoples-choice-best-film-award-1202171374/
http://deadline.com/2017/09/oscars-russia-loveless-foreign-language-1202174719/
■田近昌也
北海道出身。上智大学外国語学部卒。東京でインテリアの営業を経て、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院プロデューサー科を修了。その後メジャースタジオの長編映画企画開発部門などで経験を積む。
■公開情報
『シェイプ・オブ・ウォーター』
2018年、日本公開
監督・脚本・プロデューサー:ギレルモ・デル・トロ
出演:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ、マイケル・スツールバーグ、オクタヴィア・スペンサー
原題:The Shape of Water
配給:20世紀フォックス映画
(c)2017 Twentieth Century Fox