Blu-ray&DVDリリースを期に改めて考える、時代の流れが生んだ『ムーンライト』のアカデミー賞作品賞受賞

改めて考える『ムーンライト』のオスカー獲得

 2017年1月24日。第89回アカデミー賞のノミネーション発表が行われ、『ラ・ラ・ランド』(16)が13の部門で計14つ(主題歌賞で2曲が候補となったため)の最多ノミネーションを果たしたことで話題となった。過去の候補作品としては、『イヴの総て』(50)、『タイタニック』(97)と並ぶ歴代最多。このノミネーション結果を受けて、世界中の映画ファンの多くが「今年のアカデミー賞は『ラ・ラ・ランド』の作品賞で決まり」と思ったに違いない。

 2017年2月26日(現地時間)に開催された第89回アカデミー賞授賞式。『ラ・ラ・ランド』は作品賞の発表を最後に残した時点で、監督賞、主演女優賞、撮影賞、美術賞、作曲賞、主題歌賞の6部門で受賞を果たしていた。

 例年、作品賞を発表するプレゼンターには、スティーヴン・スピルバーグやジャック・ニコルソンなどハリウッドの大物映画人が選ばれている。この年のプレゼンターは、ウォーレン・ベイティとフェイ・ダナウェイのふたり。

 ウォーレン・ベイティは『レッズ』(81)でアカデミー監督賞を受賞、フェイ・ダナウェイは『ネットワーク』(76)でアカデミー主演女優賞を受賞している歴代受賞者だが、2017年はふたりが共演したアメリカンニューシネマの名作『俺たちに明日はない』(67)が公開されて50周年にあたる年でもあった。

 ご存知の通り、作品賞の発表時には前代未聞のミスがあった。作品賞として『ラ・ラ・ランド』の名前が呼ばれ、登壇したプロデューサーが受賞スピーチを開始。暫くして『ラ・ラ・ランド』のプロデューサーであるジョーダン・ホロウィッツが、『ムーンライト』(16)が作品賞だったと書かれたカードを掲げながら、改めて作品賞が発表され受賞結果が覆ったのであった。

 この珍事が衝撃的だった理由のひとつは、やはり『ラ・ラ・ランド』の受賞が順当だと感じていた映画ファンが多かったからではないだろうか。それだけに『ムーンライト』が作品賞を受賞したインパクトは大きかったといえる。

 『ラ・ラ・ランド』は、ハリウッド黄金期と呼ばれる1950年代までのミュージカル映画への敬愛や、技巧的な撮影技術などが評価されただけでなく、昨今「この曲を聞けばこの場面を思い出す」というような映画音楽が少なくなっていた中で、映像と音楽がマッチしたという点でも観客に受け入れられたことを指摘できる。

 3000万ドルの製作費に対してアメリカ国内で約1億5000万ドルを稼ぎ出し、日本でも約44億円の興行収入を記録した『ラ・ラ・ランド』。一方で、150万ドルの製作費に対してアメリカ国内で約2700万ドルの興行収入をあげた『ムーンライト』。どちらの作品もハリウッド映画としては低予算の作品に該当するのだが、結果的に1/20の製作費しかなく、より小規模な『ムーンライト』が作品賞に輝いた理由はどのような点にあったのだろう。

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