久しぶりの“ニコラス刑事”登場! ニコラス・ケイジが『ヴェンジェンス』で見せる、圧倒的な哀愁
またしても、ニコラス・ケイジ、である。『パシフィック・ウォー』、『スノーデン』、『ドッグ・イート・ドッグ』、『キング・ホステージ』……気が付けば今年、その出演作が立て続けに日本で公開され、ちょっとした「祭り」の様相を呈している俳優、ニコラス・ケイジ。その最新主演作『ヴェンジェンス』が、9月30日より全国ロードショーされる。
それぞれの映画で、「極秘任務を命じられた巡洋艦艦長」、「CIA訓練センターの教官」、「出所したばかりの小悪党」、「暗黒街の帝王」を演じるなど、善にも悪にも寄らない、その役どころのふり幅で知られる彼が、本作『ヴェンジェンス』で演じるのは、その名のごとく刑事だ。久しぶりに、「ニコラス刑事」の登場である。
「法で裁けぬ悪を撃て。」――そのキャッチコピーも、何やら勇ましい。聞くところによると、本作が長編映画初監督となるジョニー・マーティンは、もともとスタントマンとして、そのキャリアをスタートさせたという。これはひょっとすると、『イコライザー』、『ラン・オールナイト』、あるいは『ジョン・ウィック』のような、勧善懲悪系のアクション映画なのだろうか? けれども、その予想は、良い意味で裏切られることになる。ニコラス・ケイジ自身がプロデューサーとしても名を連ねている本作は、彼の数ある主演映画のなかでも、かなり異彩を放つ一本となっているのだから。
物語の舞台となるのは、ニューヨーク州の最西端にあるナイアガラフォールズ市だ。その名のごとく、アメリカでも有数の観光地として知られる「ナイアガラの滝」に隣接した、カナダとの国境沿いの町である。しかし、オープニングでいきなり映し出されるテロップが、もはやこの町が普通の状態ではないことを観客に指し示す。「ナイアガラフォールズ市、州最悪の治安」、「覚せい剤密造時の爆発で、病院にやけど患者溢れる」、「レイプの通報、全米で6分に1回」、「昨年は9千ヵ所超の麻薬工場を差し押さえ」。ニコラス・ケイジ扮する主人公ジョン・ドロモアは、そんなナイアガラフォールズ市警に勤務する刑事である。そして、映画のスタートから5分も経たないうちに、彼は張り込みをかけていた容疑者の反撃にあい、長年連れ添った同僚刑事を目の前で殺害されると同時に、自らも被弾してしまうのだった。
それから約一ヶ月後。身体的な傷も癒え、再び勤務に戻ろうとする彼は、いきつけのバーで、ある女性に遭遇する。彼女の名は、ティーナ(アンナ・ハッチソン)。夫を癌で失い、12歳の娘をひとりで育てるシングルマザーの女性だ。実は、妻を亡くした男やもめであるジョンは、同じ境遇でありながら、溌剌と生きようとしている彼女と言葉を交わしながら、しばし心のやすらぎを得る。しかしその後、悲劇が起こる。独立記念日の夜、彼女は町の無法者たち4人に集団レイプされてしまうのだ。12歳の娘の目の前で。
奇しくも、その現場に真っ先に駆け付けたジョンは、その惨状に言葉を失いながらも、即座に捜査を開始。自らの手で主犯格の兄弟を逮捕する。一方、顔面を殴打されるなど重傷を負ったティーナも、かろうじて一命をとりとめる。しかし、容疑者たちの親は、地域でも名うての弁護士として知られるジェイ・カートパトリック(ドン・ジョンソン)に弁護を依頼。その裁判は、被害者ティーナにとってはもちろん、第一発見者として法廷に立ったジョンにとっても、まったく予想外の展開をみせてゆくのだった。
「大事なのは真実ではない。物語の内容と伝え方のみである」。そう豪語する敏腕弁護士は、驚くべき物語を作り上げ、陪審員の支持を獲得。容疑者たちは早々と釈放されてしまうのだ。それどころか、彼ら4人は、ティーナ親子をさらに精神的に追い詰めるべく、次々と悪辣な行為に及ぶのだった。担当刑事として、ティーナ親子をサポートしようとするジョン。しかし、一介の刑事である彼ができることは、もはやほとんど残されていないのだった。そして彼は、ある決断を下す……。