角川映画メディアミックスの“本気”と“意地”ーー企画展『角川映画の40年』レポート

企画展『角川映画の40年』レポート

 今で言うメディアミックスの広報戦略を大胆に仕掛けるなど、画期的な手法で大ヒット作を次々と生み出し、一大ブームを巻き起こした≪角川映画≫の40年にわたる軌跡を作品で振り返る≪角川映画祭≫が現在開催中。それに合わせ、京橋にある東京国立近代美術館フィルムセンターでは企画展≪角川映画の40年≫が開催されている。

 これは角川映画に限ったことではないが、ある映画を回顧しようとしたとき、その遍歴を鑑みて代表作やポイントとなる作品を網羅して特集上映するのが王道。ただ、角川映画に関しては作品上映だけでは何かが足りない。そう感じた方は少なくないのではないだろうか?おそらく角川映画を少しでも通ってきた人間にとって、角川映画を振り返ったとき、真っ先に思い起こされるのは、大量にテレビで流されていた予告編や、映画館のみならず書店やレコードショップでも見かけられた主演女優のポスター、主演俳優がそのまま歌う映画主題歌や印象的なキャッチコピーに違いない。そう、角川映画は宣伝素材とパックで我々の中に確かにあった。おそらく、パブリシティが角川映画のブランド力やイメージを決定づけた。いわば、角川映画は作品と宣伝物が表裏一体の関係。作品とパブリシティが両輪となって角川映画が形成されているといえなくもない。実は、宣伝素材なくして角川映画は語れない。

 その当時の広告・宣伝物を見せることを考えたとき、展示を主とする企画展はまさにうってつけ。そういう意味で、今回、東京国立近代美術館フィルムセンターで開催となった企画展≪角川映画の40年≫は必然であり、角川映画を回顧するには欠かせなかったといっていいだろう。

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 実際、会場に足を運ぶと、それは実感できる。通常、こういったタイプの企画展は、その映画の歴史を紐解き語るにふさわしい、関係者や会社の、いわば一般には出回らない、人目にあまり触れてこなかった資料で構成されることがほとんどだ。

 でも、この企画展はまったく違う。目に飛び込んでくるのは、ポスターや原作本、凝ったパンフレットや広告コピーといった世に出て一般の人々の目に触れてきたものが当時を物語るものとして数多く並ぶ。角川映画を通ってきたとりわけ40、50代にとっては、きっと何かしらの若かりし頃の記憶が呼び覚まされる。もっといえば、ちょっと自身がタイムスリップしたような錯覚に陥るに違いない。そこでまた気づかされるのだ。どれだけ当時の角川映画が仕掛けた広告戦略が斬新でセンセーショナルで鮮烈だったかと。

 この広告戦略については当時から、”商業主義”をはじめ、いろいろと批判があった。宣伝なのだからそういった側面がなかったといったら、確かにそれは嘘になる。ただ、こうして改めて角川映画が制作した宣伝物の数々を見直してみると、単に映画をヒットさせるためだけではなかったことが伝わってくる。広告コピー、プレス資料ひとつとっても、そこから見て取れるのは”本気度”だ。たとえば、角川三人娘、薬師丸ひろ子、原田知世、渡辺典子の出演映画のプレスシートを並べたコーナーがあるのだが、これを見るとそれがわかる。その凝ったデザインとレイアウトのプレスから、彼らがどれだけ力を入れて映画を作っているかがなにか得たいの知れない熱量で伝わってくる。3人を自分たちの力で売り出して単なるアイドルではない一人前の女優に成長させようとしているかがわかる。そこからは、映画は映画会社が作るものといった時代に、あえて出版界から映画界へと乗り込んだ後発・新参者の角川がどれだけ映画に力を注いでいたのか? その映画への”本気度”と後発者ゆえの”意地”がひしひしと伝わってくるはず。その”本気”は誰も否定できない。

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 パブリシティの側面で終始してきたが、今回の企画展の注目点はそれだけではない。実は、この企画展は、単に映画的価値のある貴重な資料に目を通す的なマニアックで堅い内容では決してない。むしろカジュアルでフランクに楽しめる。

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